平清盛のイメージというと、武士の出身でありながら、天皇の外戚となって権勢を誇り、貴族化して、とうとう最後は頼朝ら源氏勢に討ち滅ぼされてしまった、そんな感じでした。歴史は「勧善懲悪」ではないと思ってはいても、貴族化して軟弱になったから源氏に負けてしまった、あるいは、平家は古代末期、中世(封建制)は鎌倉幕府から、というイメージは、確かにありましたね。
しかしいまでは、清盛は「武家政権の創始者」として積極的な評価が与えられています。
著者によれば、清盛=「悪役」というイメージを生み出したのは『平家物語』。「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理を表す…」という出だしにあるとおり、『平家物語』は、文字通り平家一門は驕ったからこそ滅んだのだ、という筋書きになっていて、それにあわせて清盛像も脚色されているというのです。
本書で描かれる清盛像は、権勢を誇るというよりは、後白河法皇と二条天皇、どちらにも忠節をつくすバランス感覚をもった政治家というもの。もちろん、鹿ヶ谷事件のあたりから、平家は孤立化し始め、「福原遷都」など強引な政権運営がおこなわれ、それがまた政権の孤立化を招いていくわけですが。
前にここでも紹介した高橋昌明『平家の群像――物語から史実へ』(岩波新書)が、清盛の孫・維盛(これもり)と、五男・重衡(しげひら)を中心に平家物語の世界に批判的に迫っているのにたいし、本書は、清盛本人の実像に迫ったもの。
平家といえば、歴史学の分野では、石母田正『平家物語』(岩波新書)という名著があります。本書では直接あげられていませんが、『平家物語』が作り出したイメージを史料に照らして再検証する、という姿勢は、石母田氏の著作と同じ。しかも、石母田氏が取り上げた『平家物語』そのものを、史実とはことなる歴史イメージを作り出した著作として、検証の対象にしてしまおうというのですから、ブックレットながら、なかなか挑戦的な一冊だと思いました。
【書誌情報】
著者:上杉和彦(うえすぎ・かずひこ、明治大学教授)/書名:平清盛 「武家の世」を切り開いた政治家/出版社:山川出版社(日本史リブレット025)/発行:2011年5月/定価:本体800円+税/ISBN978-4-634-54825-1