GAKU について

年齢:50代 性別:男 都道府県:東京都(元関西人) 趣味:映画、クラシック音楽、あとはひたすら読書

「強い処をより強く」にはルールが必要

「朝日新聞」本日付の「経済気象台」で、コラム氏が「強い処をより強く」と題して、こんなことを書いている。

 ……最近気になるのは、強者を否定する論説がこの国の一部に見られることである。
 否定しないまでも強者を矯めて弱者を育てよう、とする空気がある。あえていうが、こんなことをすれば両者共倒れは必至である。企業が育つということはそんなに甘いものではない。……

強い処をより強く – 経済気象台 : 朝日新聞

したり顔でこんなことを言っているが、僕にいわせれば、このコラム氏は経済のことがまったく分かってない。規制緩和すれば経済は成長するという、いまだにこんなワンパターンなことしか言えないのか、とあきれてしまうだけ。

なるほど、国富を増やすことは必要だし、企業が育つというのは甘いものではない。しかし、そのために「強い処をより強く」といっているだけではだめである。企業が本当に「より強く」なるためには、ルールが必要なのだ。

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3つの工場調査委員会

前項の続き。

上製版843ページ3-4行目(新書版846ページ左から3行目)に出てくる「産業調査委員会」が、「児童労働調査委員会」のことであることは、前回指摘したとおり。

これに刺激されて、ほかにもいろいろ登場する「委員会」について調べてみました。

たとえば、その直後には、「1840年に児童労働にかんする調査のための議会委員会が任命されていた」(新書版846ページ最終行)と出てきます。

さらに、次のページ(フランス語版から第4版に取り入れられた部分)には、こんな記述も出てきます。

議会は、1863年の委員会の諸要求を、かつての1842年の要求のようにあえて拒絶しようとはしなかった。

さらに、数行後にはこんな記述も。

1867年2月5日の開院式の勅語のなかで、当時のトーリー党内閣は、その間1866年にその仕事を完了していた委員会の最終提案にもとづいて、さらに別の諸法案を発表した。

さらに、新書版851ページには、「1862年の調査委員会」「1840年の調査委員会」というのが出てきます。

これらの「委員会」は、何の委員会なのか? いったいイギリスにはいくつ委員会があるのでしょうか?

いろいろ調べてみると、イギリスでは「児童労働調査委員会」とか「工場調査委員会」といわれるものは3次にわたってつくられていたことが分かりました。正式名称などは、いまいち確認しきれませんでしたが、いちおう以下のとおりです。

  • 第1次は、1833年につくられた「工場児童雇用調査委員会」。33年、34年に報告書を下院に提出しました。
  • 第2次は、1840年に組織された「鉱山および炭坑、ならびに商工業における児童および青少年の雇用にかんする調査委員会」。これは1840年の下院の議決にもとづきつくられた委員会で、だからマルクスは「議会委員会」と書いているわけです。この委員会は、1842年に第1次報告を、1843年に第2次報告を提出。第1次報告が鉱山労働にかんする調査報告で、マルクスが「1842年の要求」といっているのはこの報告書のことです。エンゲルスが『イギリスにおける労働者階級の状態』で、この委員会の報告を活用しています。
  • 第3次が、「児童労働調査委員会」(正式名称は「工場法未適用職業・製造業、すなわち、陶器、黄燐マッチ、ファスティアン織裁断、レース・メリヤス機械、煙突掃除における児童労働にかんする委員会」?)で、1862年に組織され、1863年から66年まで、5次にわたる報告書を発表。これが『資本論』で一番多く引用されている「児童労働調査報告」です。先ほどマルクスが「1863年の委員会」とか「その間1866年にその仕事を完了していた委員会」といっていたのは、この委員会のことです。

いずれの委員会も「工場調査委員会」あるいは「児童雇用調査委員会」などと略称されることあったので、マルクスは、「現在の調査委員会」とか「1840年の委員会」とか呼んでいる訳です。

ここまで調べて、はじめて意味がわかったのが、第7章「剰余価値率」第3節「シーニアの『最後の一時間』」の原注(32)に出てくる、次の文章。

レナド・ホーナーは、1833年の工場調査委員の一人であり、1859年までは工場監督官、実際上の工場監察官であって、彼は、イギリスの労働者階級のための不滅の功績をたてた。

現在は、この「監察官」というのにだけ訳注がついていますが、実は、ここの「1833年の工場調査委員」というのは、上で説明した第1次の「工場児童雇用調査委員会」のことだったのです。

レナド・ホーナーは、1833年に初めて工場監督官制度がつくられたときから工場監督官として労働者の権利を守ってたたかった人物として有名ですが、実は、その前に、1833年に「工場児童雇用調査委員会」がつくられたときに委員の1人に任命されて、このときから労働者の権利を守るためにがんばっていたのです。これについては、Leonard Horner – Wikipedia, the free encyclopediaをご参照ください。

なお、『資本論』では「児童労働調査委員会」という翻訳が定着していますが、英語ではChildren’s Employment Commissionなので、「児童雇用調査委員会」という方が正確ではないかと思います。『資本論草稿集』では、第2次の委員会について「児童雇用調査委員会」という訳語をあてています。また、『イギリスにおける労働者階級の状態』では、大月書店『全集』版でも、新日本出版社・古典選書シリーズ(浜林正夫訳)でも、「児童雇用調査委員会」と訳されています。

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最後まで叙述の拡充に努めたマルクス

少し前から『資本論』第1部、第13章「機械と大工業」の第9節「工場立法(保健および教育条項)。イギリスにおけるそれの一般化」を読んでいます。その中で、今日、いろいろ調べて、わかったことがあります。相変わらず、『資本論』の理論的な本筋には全然関係ありませんが、わかってみると「なるほどなぁ」と思えることばかりでした。

上製版844ページから859ページ、新書版847ページから864ページにかけての部分。この部分は、実は、マルクスがフランス語版(1872年)のさいに大幅に叙述を拡充し、それをエンゲルスが第4版(1890年)のさいに取り入れた部分です。新日本版では、訳注でそのことが指摘されていますが、広い部分に訳注がばらばらに書かれているので、ちょっと分かりにくいところです。

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ヒュー・ウルフ×新日フィル×ショスタコーヴィチ

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勤労者の給与が減り続けては景気回復もおぼつかない

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しかし他方で、大企業は1991年度の約100兆円から2008年度の約214兆円へと、内部留保を大幅に増やしています。まずは国民の懐を暖めないと、景気回復は望むべくもありません。

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それによれば、日本の侵略戦争や南京虐殺事件について日本側が認めたとする中国側の言い分にたいして、北岡氏が次のように反論している。

 中国側は今回の研究で、日本が中国を侵略したことや南京虐殺を認めたことが成果だと言っているが、議論した結果そうなったのではなく、そもそも日本では多くの歴史家や政府も侵略と南京虐殺を認めている。

しかし、もし日本側が最初から日本の侵略や南京虐殺を認めていたのであれば、日中歴史共同研究ということ自体が提起されなかったのでは? そもそも、日中歴史共同研究は、小泉元首相が靖国神社参拝を強行し、さらに日本の侵略を否定する安倍晋三氏が首相になる、という事態の中で、日本側が提起して始まったもののはず。それをいまさら「日本の侵略や南京虐殺は日本は元々否定していなかった」などと言うのは、あまりに不誠実ではないだろうか。

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新日本出版社から『日本近現代史を読む』が出版されました。著者は、宮地正人(監修)、大日方純夫、山田朗、山田敬男、吉田裕の各氏。

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日中歴史共同研究 報告書が公表されました

日中歴史共同研究の報告書が公表されました。

日中で犠牲者数の認識一致せず : TBS News-i

「南京虐殺事件で認識が一致せず」と報道されていますが、しかし、あくまでそれは犠牲者数。日本側の波多野澄雄、庄司潤一郎両氏の論文でも「日本軍による捕虜、敗残兵、便衣兵、及び一部の市民に対して集団的、個別的な虐殺事件が発生し、強姦、略奪や放火も頻発した」「日本軍による暴行は、外国のメディアによって報道されるとともに、南京国際安全区委員会の日本大使館に対する抗議を通して外務省にもたらされ、さらに陸軍中央部にも伝えられていた」と明記されています(日本語論文PDFの271ページ)。「集団的」な虐殺があったと明記されていることが重要です。

報告書の全文は、外務省のホームページ↓から。
外務省: 日中歴史共同研究(概要)

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嗚呼 大ブラームス!! 飯守泰次郎×日フィル

日フィル第617回東京定期演奏会

昨日は、日フィルの定期演奏会で再びサントリーホールへ。指揮は飯守泰次郎氏。

 小山清茂:管弦楽のための《鄙歌》第2番
 湯浅譲二:交響組曲《奥の細道》
 ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 op.96

飯守氏のブラームスは、ゆっくり、どっしりと構えて、鳴らせるだけ鳴らすという大ブラームスでした。(^_^;)

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平野官房長官発言の真意はどこに?

普天間基地の移設問題で、平野官房長官の発言をめぐって、いろいろ取りざたされています。

その多くは、名護市辺野古沖への移設(現行案)を前提にして、地元合意なしにも強行するつもりか、という批判。しかし、平野長官は、辺野古沖移設案だとは一言もいっていません。

「法的決着も」、重ねて言及=普天間移設で平野官房長官 : 時事通信
普天間「法律的にやれる場合も」 地元合意巡り官房長官 : 朝日新聞
移設の調整 多様なケース : NHKニュース

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「えひめ丸」追悼の曲

都響第693回定期演奏会Bシリーズ(2010年1月26日)

一昨日(26日)、仕事の関係であきらめていたのですが、予想外に早く仕事が終わったので、無事聴きに行くことができました。

都響第693回定期演奏会Bシリーズ

  • 松平頼則:「ダンス・サクレとダンス・フィナル」より ダンス・サクレ(振鉾)
  • 廣瀬量平:尺八と管弦楽のための協奏曲
  • 三木稔:管弦楽のための「春秋の譜」
  • ドナルド・ウォマック:After 尺八と二十弦箏のための協奏曲(日本初演)

指揮:小泉和裕/尺八:坂田誠山/箏:木村玲子/ソロ・コンサートマスター:矢部達哉/会場:サントリーホール/開演:2010年1月26日 午後7時

別宮貞雄氏のプロデュースによる「日本管弦楽の名曲とその源流」シリーズの第10回。ということで、この日は尺八や箏の登場する和風なプログラム。その中で、どうしても聴きたかったのは、最後に演奏された曲。ハワイ在住のアメリカ人が、2001年2月9日に起きた「えひめ丸」事件の犠牲者を追悼するためにつくった作品です。

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イギリス政府が真剣に考えた対日戦争

保谷徹『幕末日本と対外戦争の危機』(吉川弘文館)

保谷徹『幕末日本と対外戦争の危機』(吉川弘文館)

幕末の日本には、西洋列強による植民地化の危険があったのかなかったのか? という論争がかつてありました(遠山 ((ウィキペディアの「遠山茂樹」の項をみても、「昭和史論争」は書かれているものの、井上清との論争のことはまったく登場しません(2010年1月27日現在)。))・井上 ((同じくウィキペディアの「井上清」の項には「晩年はしんぶん赤旗に掲載される共産党支持者リストに名を連ねていた」とまことしやかに書かれていますが、これは記事を書いた人の勘違い。同姓同名の別人です。))論争)。最近ではすっかり流行らなくなっていましたが、その論争を受け継いだ骨太の議論を久しぶりに読みました。

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ついに100万アクセスを突破しました

本日、私どもめのブログのアクセスが100万アクセスを突破しました。これもひとえに贔屓にしていただいている皆さまのおかげと、心から感謝申し上げます。m(_’_)m

ふり返ってみれば、私がはじめてホームページを開設したのは約6年半前。1年後にブログに切り替えましたが、それは、ブログなるものが世間ではやり始める直前でした。

いらい試行錯誤や悪戦苦闘、内容面でもニュース、時事ネタあり、映画、音楽、読書ありと、いわば何でもあれで続けてきました。世間では、ブログはテーマ性が大事だと言われていますが、その逆を行く、この雑食性? こそが我がブログの個性だと思っております。(^_^;)

ということで、引き続き、Internet Zone::WordPressでBlog生活をよろしくお願いします。

おめでとうございます 名護市長選、稲嶺氏当選確実に!!

米軍普天間基地の移設問題で注目された沖縄・名護市の市長選挙で、基地移設反対の稲嶺進氏(与党=民主・社民・国民=と共産党などが推薦)の当選が確実となりました。

おめでとうございます。あらためて、基地移設反対の住民意志が明確にされたことになります。稲嶺氏を推薦した与党のみなさんの責任はいよいよ大ということです。

辺野古へ移設反対の新顔・稲嶺氏が当選確実 名護市長選 : 朝日新聞
名護市長選、移設反対候補が当選確実 : TBS News-i

追記。得票数が分かりました。
稲嶺氏17,950票にたいして、現職の島袋氏は16,362票。約1,600票の差でした。

名護市長に稲嶺氏、普天間合意の実現困難に : 読売新聞

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