『フォイエルバッハ論』を使った研究講座の感想

昨年の話になりますが、エンゲルスの『フォイエルバッハ論』を使った「科学的社会主義研究講座」が連続5回で開かれました。研究講座の内容そのものは、いずれ講義をした御本人が公表されることでしょうから、ここでは、その中で僕がなるほどこれは大事だと思ったことに限って、メモします。

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年末年始に買ったもの

今年は、新しい本を買うことよりも、これまで買った本を読むことにエネルギーを注ぎたいと思っています。そうはいっても待ってくれないのが、理論・イデオロギー分野の宿命ですが、なるべく精選していくつもりです。

ということで、最近買った本は、これまでよりちょっと少なめです。

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実質賃金率の決定メカニズム 置塩信雄『蓄積論(第2版)』(2)

実質賃金率決定メカニズムについて(続き)。

  • 蓄積過程研究のためには、実質賃金率の変動過程に立ち入らなくてはならない。実質賃金率の変動について正しい理解を欠いていることが、蓄積過程、景気循環を論じる上での誤りを生み出している。(p.69)

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実質賃金率について 置塩信雄『蓄積論(第2版)』(1)

実質賃金率はいかに決定されるか。

  • マルクスも古典派も、労働力市場の需給の緩急によって実質賃金率は下落、上昇するという見解をとっている。しかし、これは承認しがたい。(p.57)
  • 実質賃金率は貨幣賃金率とは別の概念で、労働1単位当たり賃金(貨幣賃金率)で購入できる消費財の量で定義される。(p.59)
  • しかし、労働力市場での需給関係によって影響されるのは、さしずめ貨幣賃金率であって、実質賃金率ではない。(p.59)
  • 失業がかなり発生し、貨幣賃金率が下落をしている場合、消費財か価格がどのような運動をおこなうかを知ることなしには、実質賃金率の変化方向をいうことはできない。一般的過剰生産による生産の全般的収縮による場合、消費財部門において過剰生産=超過供給があり、消費財価格は下落する。この段階での実質賃金率の水準の運動は、貨幣賃金率と消費財価格の下落率の相対的関係によって決まる。この場合、貨幣賃金率の下落率より、消費財価格の下落率の方が大であり、したがって、実質賃金率が上昇する場合が十分あり得る。(p.60)

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浜林正夫『ナショナリズムと民主主義』

浜林正夫『ナショナリズムと民主主義』(大月書店)

浜林正夫先生の新著『ナショナリズムと民主主義』を早速読み終えました。

本書は、イギリス(正確にはブリテン)史にそって、ナショナリズム(同じ国家に帰属しているという意識)がどのように成立、展開してきたかをたどったものです。

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植村邦彦『マルクスのアクチュアリティ』

植村邦彦『マルクスのアクチュアリティ』

植村邦彦氏の新著『マルクスのアクチュアリティ――マルクスを再読する意味』(新泉社、10月刊)を読み終える。2日ほど、通勤の行き帰りの電車の中で読んだが、とくにひっかかるところもなく、軽く読めてしまったというのが率直な感想。

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置塩信雄『マルクス経済学』を再読中

あらためて置塩先生の『マルクス経済学』(筑摩書房、1977年刊)を読みなおしています。これで3回目のような気がするのですが、まだいろいろ発見することがあって驚いています。

例えば、3ページでは剰余価値の搾取が「資本制的生産の規定的動機」だと書かれています。
最近、資本主義の「推進的動機」「規定的目的」という角度からその体制的矛盾を動的に捉えるということが提起され、僕自身大事な提起だと思っていたのですが、30年も前からそういう角度で資本主義をとらえておられたとは! やっぱり、これまでの最良の研究成果をきちんと受け継がないとダメですね。(^_^;)

ゲットしました!

長年、ほしくてほしくて仕方なかった渓内謙『スターリン政治体制の成立<第4部>』(岩波書店、1986年)を手に入れることができました。?(^o^)/

第1部?第3部は前から持っていたのですが、第4部は新刊のときに非常に高価(定価1万4700円)だったために買わずにいたら、いまでは品切れ重版未定(すでに渓内先生が亡くなられたので、たぶん永久に再版されないでしょう)。

で、いまさら古書屋で手に入れようと思っても、単品では出回り物がなし。セットで買おうと思っても、全4巻セットになると最低でも4万円する、という超貴重品です。ちなみに、第1部?第3部の3冊セットだと1万円程度。ということは、第4部だけで3万円!? それを偶然ながら、べらぼうな安価で買うことができました。ありがとうございました。m(_’_)m

他にも、有斐閣『資本論体系』の第9-2巻「恐慌・産業循環(下)」と第10巻「資本論体系と現代資本主義」、それに、とっくに絶版になっている大月書店版『マルクス・エンゲルス選集』などもゲット。次の問題は、いまでも本であふれている狭い部屋に、どうやってこれらを置くスペースを確保するかです。う〜む (^_^;)

置塩信雄『現代資本主義と経済学』を読み返す

置塩信雄『現代資本主義と経済妣??(岩波書店)

「新自由主義」批判との関係で、あらためて、置塩信雄先生のケインズ経済学にたいする批判を勉強し直そうと、先週から『現代資本主義と経済学』(岩波書店、1986年)を読み返していたのですが、今朝ようやく読み終えました。

これは、『蓄積論』や『マルクス経済学II』で論じられていたことだと思うのですが、置塩氏は、正常に剰余価値を実現するためには、資本家の投資需要が不可欠であることを解明されています。要するに、C+V+MのうちMを資本家の個人的消費だけですべて消費することは不可能だということです。

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重田澄男『マルクスの資本主義』

重田澄男『マルクスの資本主義』(桜井書店)

重田澄男氏の新刊『マルクスの資本主義』(桜井書店)を読み終えました。

マルクスは、資本主義を表わす術語として、『哲学の貧困』(1847年)では、フランス語で、la production bourgeoise(ブルジョア的生産)と表記。『共産党宣言』(1848年)や『賃労働と資本』(1849年)あるいは『経済学批判』(1859年)では、ドイツ語でdie brügerliche Produktionweise(ブルジョア的生産様式)と表現していました。これが、『資本論』ではdie kapitalistische Produktionweiseという用語になっていることはよく知られているとおりです。

本書は、マルクスの資本主義概念が、なぜ、このような「ブルジョア的生産様式」という用語から「資本主義的生産様式」という用語に生まれ変わらなければならなかったか、その謎解きしようとしたものです。そのことを明らかにするために、著者は、『ロンドン・ノート』(1850?53年)や『経済学批判要綱』(『1857?58年草稿』)をたんねんに調べており、ほんらいの謎解き以外にもいろいろと興味深い論点が取り上げられていると思いました。
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最近買った本 3月編

また1ヵ月以上立ってしまいました。仕事が忙しいのと、仕事の関係でどちらかというと“理論”の方に関心が移っているので、ちょっとペースが落ちてます。

  • 愛敬浩二『改憲問題』(ちくま新書、4月刊)
  • 向寿一『マネタリー・エコノミクス 国際経済の金融理論』(岩波新書、4月刊)
  • 小林孝輔・芹沢斉編『基本法コンメンタール 憲法<第5版>』(日本評論社、4月刊)
  • 『岩波講座 アジア・太平洋戦争<5> 戦場の諸相』(岩波書店、3月刊)
  • 『ポリティーク<11> 特集「改憲問題の新局面」』(旬報社、3月刊)
  • 大沢真知子『ワークライフバランス社会へ』(岩波書店、3月刊)
  • 今井伸英『私たちの“共産党宣言”』(本の泉社、3月刊)
  • 笠原十九司・吉田裕編『現代歴史学と南京事件』(柏書房、3月刊)
  • 東京新聞社会部編『あの戦争を伝えたい』(岩波書店、3月刊)
  • 尾木直樹『思春期の危機をどう見るか』(岩波新書、3月刊)
  • 最上敏樹『いま平和とは 人権と人道をめぐる9話』(岩波新書、3月刊)
  • 米沢富美子『人物で語る物理入門<下>』(岩波新書、3月刊)
  • 小田部雄次『華族 近代日本貴族の虚像と実像』(中公新書、3月刊)
  • 薩摩秀登『物語 チェコの歴史』(中公新書、3月刊)

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読み終えました。『マルクスの使いみち』

稲葉振一郎・松尾匡・吉原直毅『マルクスの使いみち』

稲葉振一郎・松尾匡・吉原直毅『マルクスの使いみち』(太田出版)を、とりあえず読み終わりました。

いまでもマルクスは有効だと思っている僕の目から見ると、松尾匡>吉原直毅>稲葉振一郎 の順で、言われていることに納得。第2章で、搾取理論を捨てたとされるローマーにたいし、「搾取概念にこだわっていく」とする松尾氏が、置塩先生の「マルクスの基本定理」に依拠しながら次のように指摘されているのに注目したいと思います。

マルクスの『経済学批判要綱』(1857?58年)でみてとれる『資本論』体系の根本的なストーリーは、資本主義というのは相対的剰余価値生産を推進するのだと。相対的剰余価値生産とは、人々が生活物資を作るための直接間接の労働生産性が上昇していって、人々の生活を再生産するためにどうしてもしなければならない労働が減少することですが、マルクスはこうして自由時間がつくられるのだといっています。人間が個性を開花させ、その能力を全面的に発揮して、本当に人間らしく生きることができるのは、この自由時間のなかにおいてだというわけです。マルクスのなかには、この自由時間を最大化することが人類の目的だというような志向があり、これは確かに、投下労働価値の森嶋流の定式化である労働最小化とぴったり合致します。マルクスにいわせれば、この、本来だったら自由時間になったはずの時間が、資本主義のもとでは他人のために働かされる時間になる。これが搾取だというロジックになっています。どこまでも自由を希求するのがマルクスの基本的価値観で、僕もそれを引き継いで先ほどから述べている搾取論解釈をとっているのです。(本書、100ページ)

現実の搾取を、そのたびに「本来の自由時間」と比較する必要はないと思いますが、マルクスの搾取論がそういう意義をもっていることは、松尾氏の指摘するとおりだと思います。

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資本論学習会のレジュメと資料をアップしました。

先日やった資本論学習会のレジュメと資料集をアップしました。どちらもpdfファイルです。
前にも書いたとおり、これで90分はまるっきり無理です。不破さんの『「資本論」全三部を読む』を読む参考にしていただければ…。 (^_^;)

レジュメ(pdfファイル、73.4KB)
資料集(pdfファイル、332KB)

なお、『「資本論」全三部を読む』のうち『資本論』第1部にあたる部分(第1冊?第3冊)については、以前私が書いた紹介原稿もアップしてあります。ご参考まで。

『資本論』の魅力をちょこっと紹介しました

昨日、「白バラの祈り」を見る前にやってきた仕事というのは、『資本論』学習会での講義。といっても、参加者は僕より年輩のベテランのみなさん。1年かけて第1部を読んできて、引き続き第2部、第3部に進みたいという、いわば折り返し点での学習会に招いていただきました。

そこで、講義では、最近の『資本論』研究がどのような新しい理論的な展望を切り開いてきたかをできるだけ面白く紹介することにポイントを置いてみました。それから、第2部、第3部はこれまで「難しい」という印象があるので、最近の新メガ草稿研究から明らかになってきたエンゲルスの編集上の問題にも触れながら、「分かりやすい」読み方を紹介してみました。
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またまたいろいろ買うてしもうたがな…

1カ月以上間が開いてしまいました。こうなると、自分でも何を買ったのか、さっぱりわかりません。ということで、山積みになった本をひっくり返しつつ…。

  • 都留重人『市場には心がない』(岩波書店、2月刊)
  • 藤原正範『少年事件に取り組む――家裁調査官の現場から』(岩波新書、2月刊)
  • 金子雅臣『壊れる男たち――セクハラはなぜ繰り返されるのか』(岩波新書、2月刊)
  • 西原博史『良心の自由と子どもたち』(岩波新書、2月刊)
  • 三島憲一『現代ドイツ――統一後の知的軌跡』(岩波新書、2月刊)
  • 町田健『チョムスキー入門――生成文法の謎を解く』(光文社新書、2月刊)←ちょっと期待外れ
  • 小町文雄『サンクト・ペテルブルグ』(中公新書、2月刊)
  • 的場昭弘『マルクスに誘われて』(亜紀書房、2月刊)←早くも思想的自伝を出版なさるとは…。的場先生も偉くなられたもんで。
  • 速水敏彦『他人を見下す若者たち』(講談社現代新書、2月刊)
  • 姜尚中『姜尚中の政治学入門』(集英社新書、2月刊)
  • 牧野雅彦『マックス・ウェーバー入門』(平凡社新書、2月刊)
  • 保阪正康『昭和陸軍の研究』上下(朝日文庫、2月刊)←とりあえず上を読了。下に取りかかれるか…?
  • 藤本一勇『批判感覚の再生――ポストモダン保守の呪縛に抗して』(現代書館、2月刊)
  • 山本明利・左巻健男『新しい高校物理の教科書』(ブルーバックス、2月刊)←1月からシリーズで4冊でてます。
  • 杵島正洋・松本直記・左巻健男『新しい高校地学の教科書』(ブルーバックス、2月刊)

以上は2月分だけ。それ以前の分は続きをどうぞ。(^_^;)
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書庫拝見

本日、あるお方の新築された書庫を拝見する機会を得ました。
白木の香りも新しい書棚に整然と配列された本を見せていただきましたが、マルクス、エンゲルス、レーニンなどの著作や『資本論』草稿、新MEGAなどとともに、自然科学、小説、マンガまで、ずらり並んだ様子に圧倒されました。僕なんか、狭い部屋のスチール書架に、前後2列に(一部はその上の空間にも)本を並べて、前の本をどけないと後ろに何が並んでいるかも分からないような状況とは違って、各棚に1列ずつ本が並んでいるのは、やはり使いやすい、と、ごく当たり前のことに感動しました。(^^;)
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『季刊 経済理論』第42巻第4号

『季刊 経済理論』第42巻第4号表紙

久しぶりに『季刊 経済理論』(経済理論学会編、桜井書店)を購入。

特集の「『資本論』草稿研究の現在――新MEGA編集・刊行とその成果」にも興味があったのですが、もう1つ読んでみたかったのは、中谷武・大野隆「労働時間と雇用の決定について」という論文。雇用水準と労働時間との関係を、それぞれを独立因数として数量的モデルを考え、それを1960年代以降の日本の雇用量・労働時間の実際の動きと照らし合わせて検討してみようというものです。

相変わらず数式的な議論はよく分からないのですが、

  1. 基準労働時間がある水準を下回っていれば超過労働が発生し、ある水準を上回っていれば超過労働は発生せず、実際の労働時間が基準労働時間に等しくなるような、基準労働時間のある水準(「限界基準労働時間」)というものが存在する。
  2. 「限界基準労働時間」は、基準実質賃金率が高く、超過労働に対する賃金の割増率が高い場合は低くなり、超過労働は発生しにくくなる。それに対し、離職率や割引率が上昇すると、「限界基準労働時間」も上昇し、超過労働が発生しやすくなる。

というもの。要するに、実質賃金率が高く、割増賃金率が高いときは、超過労働の限界コストが高くなるので、企業は労働時間の延長ではなく、雇用拡大によって必要な労働投入をまかなうのに対し、離職率が高く、したがって雇用調整費用やリクルート費用、ジョブトレーニングの費用がより多くかかる場合は、雇用拡大よりも労働時間を延長する方が企業に有利だということです。

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