訃報2つ

1つめは、映画監督の黒木和雄さん。以前、このブログでも紹介しました(「9条変えたら憲法は死滅する」黒木和雄監督が講演)が、九条の会の呼びかけにこたえ、自ら「映画人九条の会」の呼びかけ人となって、憲法九条を守ることの大切さを訴えておられたことが印象的でした。

2つめは、哲学者の沢田允茂さんの訃報。沢田氏は慶応大学名誉教授で日本哲学会会長なども歴任された方で、専門はアメリカの実証主義論理学。マルクス主義とはまったく立場は違うのですが、数年前に出版された『昭和の一哲学者 戦争を生きぬいて』(慶應義塾大学出版会、2800円、2003年11月刊)を読んだことが大変印象に残っています。

沢田允茂『昭和の一哲学者 戦争を生きぬいて』

その感想は、以前書いたことがあるのですが、父は陸軍参謀次長を務めた沢田茂氏。允茂氏自身、1940(昭和15)年に応召され、中国をへて、1943年に南方に移動、ニューギニア・パラオ島で終戦を迎えられたそうです。軍人の家庭に生まれながら、早くから思想めいたことに目覚め、日本の戦争に批判的な意識をもちつつ応召されたこと、南方での、今からは想像もつかないような飢えとマラリアとの闘いを率直に書かれています。戦後、慶応大学に戻られてからは同大教職員組合の初代委員長を務められたこと、また日本哲学会の発足にかかわり、大学や学派の違いをこえて、研究者の交流に努められたこと――そのなかにはマルクス主義哲学の寺沢恒信氏の名前もあって、立場は違っても、マルクス主義哲学を排除するようなことをしないリベラルな姿勢の大もとには、戦前、戦中の体験があったのではないかと思いました。

お2人の訃報に、あらためて、戦争を直接身をもって体験された方々の思いを、私たちがどのように受けとめ、受け継いでいくか、考えさせられました。

黒木和雄監督死去…8月公開「紙屋悦子の青春」待たず(スポーツ報知)

黒木和雄監督死去…8月公開「紙屋悦子の青春」待たず
[スポーツ報知 4月13日12時25分更新]

 宮沢りえ(33)主演の「父と暮せば」など戦争レクイエム3部作や「祭りの準備」で知られる映画監督の黒木和雄監督が12日、脳こうそくのため、亡くなった。75歳だった。8日に体調を崩し入院。そのときは意識もはっきりしていたが、この日になって急変し、帰らぬ人となった。最新作は太平洋戦争時代を描いた原田知世(38)主演の映画「紙屋悦子の青春」。8月の公開を待つばかりだった。通夜、告別式は未定。12日朝容体急変 名匠が急死した。8日に体の不調を訴え、軽い脳こうそくで都内の病院に入院。症状は軽かったものの、わずか4日後のこの日、朝に容体が急変し危篤(きとく)状態に。最愛の夫人と娘さんに見守られ、午後3時43分、静かに息を引き取った。75歳だった。
 常に黒の編み上げ帽をかぶり物腰の柔らかなジェントルマンだった。高齢になっても、映画製作の情熱は衰えず、「父と暮せば」(04年)で“戦争レクイエム3部作”を完結させてからも、意欲を燃やし続けた。次回作を準備中 黒木監督は以前、「15歳のときに空襲を受けて、瀕死(ひんし)の友達をおいて逃げたことがある。その後ろめたさが映画を作ったモチベーションになっている」と語るように、地元・宮崎で幼少期に負った衝撃と悲しい体験を忘れることなく後世に伝えるために、映画づくりに没頭した。最後に取り上げた作品のテーマは再び“戦争”。「紙屋悦子の青春」でメガホンをとった。特攻隊に志願した恋人から親友を結婚相手に推薦される女性の生涯を描いたもの。原田知世、永瀬正敏を起用した。
 昨年10月に鹿児島でクランクイン。順調に撮影を終え、今年初めに完成。8月の公開を待っていた矢先だった。そして、次回作として“股旅(またたび)もの”の準備を進めており、28歳で夭折(ようせつ)した映画監督・山中貞雄氏の生涯についても「描いてみたい」と話すなど、プランは尽きなかった。
 楽しみにしていた「紙屋悦子の?」の公開を見ることもなく“遺作”となってしまったが、戦争と映画に真摯(しんし)に向き合った黒木監督の精神は、日本映画界に大きな形となって残っている。

 ◆黒木 和雄(くろき・かずお)1930年11月10日、宮崎・えびの市生まれ。幼少期を満州(現中国東北地方)で暮らす。54年、同志社大法学部卒業、岩波映画制作所演出部に入社。ドキュメンタリー映画の演出を務めた。62年にフリーに。64年、「あるマラソンランナーの記録」で高い評価を受ける。近年は「TOMORROW/明日」(88年)、「美しい夏キリシマ」(02年)、「父と暮せば」(04年)と戦争レクイエム3部作を作り評価を得た。

哲学者で慶応大名誉教授の沢田允茂さん死去(朝日新聞)

哲学者で慶応大名誉教授の沢田允茂さん死去
[asahi.com 2006年04月14日18時52分]

 沢田允茂さん(さわだ・のぶしげ=慶応大名誉教授・哲学)が14日、心筋梗塞(こうそく)で死去、89歳。通夜は16日午後4時、葬儀は17日午前11時から東京都目黒区下目黒3の19の1の羅漢会館で。喪主は長男誠さん。
 「認識の風景」などの著書があり、日本哲学会会長を務めた。

訃報2つ」への3件のフィードバック

  1. 黒木和男監督の少年時代について初めて知りました。「紙屋悦子の青春」を試写で見ましたが、戦争に行かざるおえなかった若者と周りの人々の悲しみとつらさを僅かながらも共感できる作品です。言葉のはしばしにあるユーモアが秀逸。ただあまりにきれいに描かれていることが若干きになりました。このような映画を見た人々が兵士は美しく散った。。。などと戦争を美化するのではなく、情報を与えられず犬死にを強いられたという日本の犯した過ちを見つめ、近隣諸国の人々の痛みに思いを馳せるきっかけとなることを願いたいです。

  2. 祖父沢田允茂の本を読んでいただき有難う御座います。私は祖父の歩んできた人生を亡くなってから気付きました。たまたま祖父の事ネットで調べていたらこのブログに来てしまいました。凄く嬉しくてコメントを書き込んでおります。亡くなる前日まで書いていた本の方も宜しく御願いします。

  3. masaさん、初めまして。コメントありがとうございます。
    沢田允茂氏のお名前は、岩波新書『現代論理学入門』のときいらい存じ上げておりましたが、陸軍参謀次長の沢田茂氏の御子息であることは知りませんでした。最後の著書も書店では拝見しておりました。機会があれば、是非読んでみたいと思います。

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