どうして東電を残さなければならないのだろうか

東京電力の救済策に関連して、枝野官房長官が銀行の債権放棄を求める発言をしたのにたいして、金融界から反発が続いている。

しかし、あれだけの事故を起こし、損害賠償だけでも莫大な金額にのぼり、さらに福島第1原発の最終的な廃炉・解体処分までさらに何十年、いったいいくら費用がかかるか分かりもしない現状を考えれば、東京電力は事業継続は事実上不可能だろう。にもかかわらず、国から資金を出させて生きながらえさせて、自分たちの融資した資金を回収しようというのは、あまりに虫が良すぎる。株にせよ社債にせよ、それは「儲け」を期待しての経済行為。自分たちの予測が外れた以上、当然、投資した金は返ってこず、損をこうむる――それが資本主義というものだ。

「東京電力はつぶせない」なんていうことはない。電力供給は、新会社をつくって、そこに現在東電がもっている発電・送電施設を全部移せばいい。現在の東京電力の発行済み株式は、約16億株、時価総額6100億円。原発周辺の住民の方々がこうむった被害を考えれば、100%減資で資本家たる株主のみなさんがその程度の負担をしても当然ではないだろうか。

オフレコ発言が示す真実:東京新聞
クローズアップ2011:東電賠償枠組み決定 不透明な「国民負担回避」:毎日新聞
東証社長「東電は政府の会社ではない」 官房長官を批判:日本経済新聞

オフレコ発言が示す真実

[東京新聞 2011年5月18日]

 福島第一原発事故の賠償枠組み案に関連して、枝野幸男官房長官が銀行の債権放棄がなければ「国民の理解はとうてい得られない」と会見で発言した。
 すると、玄葉光一郎国家戦略相はテレビで枝野発言について「言い過ぎ」と批判し、閣内で認識の違いが露呈している。
 それだけではない。役所からも“枝野批判”が飛び出した。細野哲弘資源エネルギー庁長官が13日の論説委員懇談会で「これはオフレコですが」と前置きして、こう語ったのだ。
 「はっきり言って『いまさら、そんなことを言うなら、これまでの私たちの苦労はいったい、なんだったのか。なんのためにこれ(賠償案)を作ったのか』という気分ですね」
 賠償案は株主や銀行の責任を問わず事実上、国民負担による東電救済を目指している。長官発言は「苦労して株主と銀行を救済する案を作ったのに、枝野発言はいったいなんだ」と怒りを伝えようとしたのだ。
 経済産業省・資源エネルギー庁は歴代幹部の天下りが象徴するように、かねて東電と癒着し、原発を推進してきた。それが安全監視の甘さを招き、ひいては事故の遠因になった。
 自分たちがどちらの側に立っているか、率直に述べている。まあ正直な官僚である。同意したわけでもないのに勝手なオフレコ条件に応じる道理もない。「真実」を語る発言こそ報じるに値する。 (長谷川幸洋)

クローズアップ2011:東電賠償枠組み決定 不透明な「国民負担回避」

[毎日新聞 2011年5月14日 東京朝刊]

◇機能不全、可能性も

 政府は13日、東京電力福島第1原発事故の損害賠償支援の枠組みを決めたが、「首都圏への電力安定供給」や「市場の混乱回避」を図る一方、「国民負担回避」や「電力料金の値上げ抑制」も目指した結果、中途半端な内容となった。兆円単位にのぼる巨額賠償に対応できるかどうか分からず、枠組みが機能不全となり、結局、賠償負担が電力料金に転嫁されることも予想される。また、枠組みに東電の取引銀行の貸手責任や、国の行政責任が反映されていないことには、政府・与党内でも異論があり、関連法案の国会審議の難航は必至だ。【山本明彦、大久保渉、笈田直樹】

 「電気料金であれ税金であれ国民に転嫁せずにやっていくことに最大限努力するということだ」。枝野幸男官房長官は13日の会見で、枠組みに「国民負担の極小化」を明記したことを強調した。
 枠組みでは官民が東電の原発事故の賠償を支援する機構を設立、政府がいつでも換金可能な交付国債を付与する一方、原発を持つ電力会社10社は負担金を拠出する。これを原資に機構は東電に融資して賠償の資金繰りを支援、東電が賠償負担で債務超過に陥らないように優先株引き受けによる資本注入も行う。
 東電は電力供給に必要な設備投資分などを除き、年間1000億〜2000億円ずつ長期間かけて機構に資金を返済。政府は官邸に設置する第三者機関などを通じて東電の資産査定やリストラを監視して、東電の返済を確実にする仕掛けだ。政府は資産売却で最大8000億円、人員削減などで年2000億円程度のコスト削減効果を見込む。
 さらに、東電を含む原子力事業者10社が負担金などの形で機構に拠出する資金(年間4000億円程度)も賠償負担に回せるため、政府内には「時間はかかるが、国民負担は回避できる」(財務省幹部)との期待感がある。
 もっとも、この枠組みで東電から実際に合理化益をどれだけ出させられるかは不透明だ。10年1月に会社更生法の適用を申請した日本航空では、グループ従業員の3分の1を削減し、OBの企業年金も減額した上、100%減資と借金棒引きに踏み切った。これに対して、東電は電力供給維持の観点から破綻させられず、金融市場に配慮して発行残高5兆円にのぼる社債も全額保護する必要があった。人員削減でも現状は来春の新卒採用を見送る程度。東電はリストラの甘さを批判され、代表取締役の報酬返上や、21人いる顧問の削減を進めるが、金額的には大きな期待はできない。
 今後は一段のリストラが不可欠だが、13日の参院予算委員会で企業年金減額を迫られた清水正孝・東京電力社長は「社員、退職者の老後の生活に直結する。現時点では検討していない」と否定的な考えを表明。菅直人首相が「国民の納得が得られるか、きちんと判断していただきたい」と注意する場面もあった。
 一方、東電以外の電力会社が機構に支払う負担金の性格もあいまいだ。海江田万里経済産業相は13日、「万が一(別の原発事故が)起こった場合、また機構を使う」と東電以外の電力会社に福島原発賠償の“奉加帳”を回した理由を指摘した。
 しかし、大手電力会社側は「株主に説明できるようにしてほしい」(関西電力)と反発姿勢を崩していない。さらに「年間数百億円にのぼる負担金は合理化努力だけでは賄えない」として、第2次石油危機時以来、約30年ぶりの本格値上げも検討する。
 ただ、賠償負担を東電管外の利用者につけ回しするような電気料金値上げが受け入れられるかは疑問で、負担金の扱いを巡り、対立が再燃する可能性もある。

◇行政責任も不明確

 東電支援の枠組みが取引先金融機関の貸手責任や原発事故の温床となった原子力行政の責任を明確にしなかったことも国民の反発を呼びそうだ。
 貸手責任を巡っては、枝野官房長官が13日午前の会見で「(責任を問われないと)国民の理解を到底得られない」と発言した。東日本大震災に伴う福島第1原発事故への対応に関連し、メガバンクなどが行った約2兆円の緊急融資は別としても、銀行が持つそれ以外の東電に対する債権は減免を検討すべき対象になると指摘したものだ。
 しかし、銀行側は「債権放棄に踏み切れば、その後の追加融資はできなくなる。政府は経済ルールが分かっていないのではないか」(メガバンク首脳)などと猛反発している。みずほ信託銀行の野中隆史社長は13日「債権放棄を前提として考えるのは、民間企業にとって健全でない」と批判。東電の主力取引行の親会社の三井住友フィナンシャルグループの宮田孝一社長は13日、「あえてコメントは差し控えたい」と述べたが、表情には不満も漂った。
 東電や金融機関の責任を問う以上、「国策民営」で原子力を進めてきた国の行政責任の明確化も不可欠だが、その点も先送りされたまま。原発事故をめぐっても菅直人首相や海江田経産相は大臣給与の返納を表明したが、経産省や保安院、安全委員会の幹部は責任を全く明確にしていない。
 一方で、政府・与党内では賠償負担が想定以上に巨額にのぼり、被害者救済が滞ることを懸念して「国がもっと賠償支援で前面に出るべきだ」との意見もある。野党側の賛否も明確ではなく、枠組みを実現する関連法案の国会審議が難航するのも必至の情勢だ。
 このため、政府・民主党は必要な関連法案の今国会提出を見送り、夏以降に召集する臨時国会での成立を目指す方向で調整している。政府は、支援の前提となる第三者委員会による東電の財務状況の査定に「月単位の期間が必要」(枝野官房長官)と説明するが、国会での厳しい情勢が法案提出先送りの一因であるのは明白だ。
 明確な機構設立の時期は見通せない状況で、被災者への賠償に遅れが生じることも懸念される。

◇東電の福島第1原発事故の賠償問題の経緯◇

<3月>
11日 東日本大震災で福島第1原発の冷却機能停止。政府が原発の半径3キロ圏内の住民に避難指示
12日 避難指示を10キロ圏内に拡大。その後1号機爆発で20キロ圏内に拡大
21日 菅直人首相が福島、茨城、栃木、群馬4県の知事にホウレンソウとカキナ、福島県産の原乳の出荷停止を指示
25日 枝野幸男官房長官が会見で20〜30キロ圏内の住民に自主避難を促す
<4月>
 4日 茨城県沖で採取のコウナゴから、1キロ当たり4080ベクレルの放射性ヨウ素検出
15日 東電が避難住民に1世帯100万円(単身世帯は75万円)の一時金仮払いを決定
22日 政府が南相馬市など福島県内の12市町村にコメの作付け制限を発動
25日 東電が常務以上の役員報酬の半減などのリストラ策発表
26日 賠償金の仮払いの支払い開始
28日 原子力損害賠償紛争審査会が賠償の1次指針を提示
<5月>
10日 東電の清水正孝社長が政府に賠償に対する支援を要請。代表取締役8人の報酬全額返上などの追加リストラ策を提示
11日 東電が海江田万里経済産業相の示した賠償支援条件の6項目を受諾
13日 政府が東電の賠償支援策の枠組みを正式決定

東証社長「東電は政府の会社ではない」 官房長官を批判

[日本経済新聞 2011/5/18 2:05]

 東京証券取引所の斉藤惇社長は17日の記者会見で、枝野幸男官房長官が銀行に東京電力への債権放棄を求める趣旨の発言をしたことについて「どういう立場でおっしゃっているのか分からない。東電は株主の会社であって政府の会社ではない」と批判した。
 斉藤社長は産業再生機構の社長時代、ダイエーなどの再生を手掛けた。この経験を念頭に「私は法律に基づいて金融機関に債権放棄を要請した」と述べ、民間企業の経営問題は国民が納得できる議論を積み上げ、法律などに基づいて介入すべきだと強調した。
 「安易に債権放棄させれば銀行は今後、東電の追加融資に応じなくなる」とも指摘。銀行の経営者は預金者や株主にも責任を負っているため、政府が説得力のある枠組みを示さない限り、債権放棄には応じられないとの見通しを示した。

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どうして東電を残さなければならないのだろうか」への2件のフィードバック

  1. 全ての電力会社の発電と送電部門を分離し地域独占をなくすべきである。
    東電から電力を買う必要はなくなるから、電気料金は自由に値上げさせればよい。

  2. 変人さん

    そういうご意見は多いんですが、はたしてそうなるかどうか。

    電力はストックできないので、需要5000万kwにたいして供給能力が5000万kwなら、他所から買うということはできず、供給側に価格決定権がもたらされる。企業が工場で発電するなど自由参入ができるようになったとしても、供給能力は部分的なもの。したがって、発送電を分離して自由競争にすれば、結局、送電部門の採算が悪化することになるのではないでしょうか。その結果が大規模停電だったりすると、困ったことになります。

    要するに、電力の場合、需要されるのは送電能力ではなく電力そのものなのだ、というきわめて単純な事実が、発送電分離論では無視されいているように思います。

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