筑摩版『資本論』

筑摩書房から新しく出た『資本論 第1巻』を読み始めました。

とりあえずぱらぱら読み始めた印象では、細かい訳注などがいっさいない(簡単なものは割り注で入っているが)ので、意外と読みやすいというのが一番。あと、強調(ゴチック)がたくさんあるのも特徴です。後者は、邦訳「マルクス・エンゲルス全集」などの底本となっているDietz社のWerke版ではいっさい省略されているものを、同じDietz社の普及版(1953年)を参考に復活させたとのこと。従来の邦訳資本論にはなかったもので、結構たくさん出てきます。

ところで、これまで読んだところで、誤訳(もしくは誤植)と思われるのは――

(1)上巻68ページ13行目、および、同72ページ8行目の「人間労働の支出」のところは、独文はArbeitskraftなので、「人間労働力の支出」と訳されるべき部分です。同じ68ページの15?16行目では、「人間の労働」と「人間の労働力」がきちんと訳し分けられているので、たんなるミスか、それとも誤植なんでしょうか。しかし、2カ所もというのはちょっと解せません。

(2)上巻171ページ、注73の3行目と4行目の「資本制生産様式」。原文はProduktionsprozesses(「生産過程」)なので、ここも訳が違っています。そのあとに出てくる「生産様式」はProduktionsweiseなので、正しい翻訳になっています。

こなれた日本語にするために、いろいろ努力されていますが、上記2点は誤訳もしくは誤植と言わざるをえません。

問題は個人消費の回復なのだ

GDPが3期連続で実質マイナスになったということで、各紙が一斉に報道。マイナスの原因として、各紙は、「個人消費の減速が響いた」(日経)、「10?12月期のマイナス成長は、GDPの5割超を占める個人消費が前期比0.3%減だったのが主因」(毎日)と指摘しています。

先日、衆院予算委員会で日本共産党の志位委員長が、企業収益は回復しても国民の所得が向上していない問題を指摘していましたが、各紙とも、この問題を指摘しています。

毎日新聞
政府はこれまで、「企業の収益回復で所得が上向き、消費が改善される」という自律回復のシナリオを描いていた。ところが企業の利益は労働者に分配されず、企業内部にたまったまま。内閣府の消費動向調査では、雇用不安が薄れたことを受けて堅調だった消費者マインドが、昨夏をピークに悪化する兆しを見せている。
読売新聞
特に、景気回復のカギを握る個人消費が、2・四半期連続でマイナス成長となり、マイナス幅も拡大したのは気がかりだ。企業業績が上がっても、企業は正社員の雇用をパートに切り替えるなどして人件費抑制の動きを強め、家計の所得増にはつながっていないためだ。GDP統計でも、10?12月期の雇用者報酬(名目)は前年同期比0.4%増と、6・四半期ぶりのプラスとなったものの、公務員の賞与の支給方法の変更に伴う特殊要因を除くと0.1%程度の増加となり、ほぼ横ばいだ。
 今後も、定率減税縮小や年金保険料の上昇などの負担の増加が、消費者心理に影響を与え、消費を抑制する懸念が指摘されている。
東京新聞
景気回復を先導してきた個人消費が失速したのも気がかりだ。今後、定率減税の縮減や社会保障制度の見直しによる負担増が、消費者心理にマイナスの影響を与える恐れもある。
水野和夫・三菱証券チーフエコノミスト(日経)
所得環境の悪化により個人消費が景気全体の足を引っ張る構図となった。……個人消費の悪化が目立つ。デジタル家電などの「アテネ五輪特需」の反動はあるが、主因は所得の伸びの鈍化だ。中小企業の社員の賃金が伸びず、全体の増加を阻んでいる面がある。
朝日新聞
最大の焦点は個人消費が復調するかどうかだ。10?12月期の落ち込みは自然災害や暖冬など一時的要因による下押しも大きく、いずれ堅調さを取り戻すとの見方も多い。だが消費の裏付けとなる所得は、下げ止まり傾向だが、明確に増勢に転じているわけではない。……再び景気拡大を展望するためには、企業収益の好調が続くうちに家計部門へのバトンタッチができるかどうかがかぎになる。

竹中平蔵竹中経済財政・郵政民営化担当大臣のように、「景気はやや長い踊り場になっているが、大局的に見ると回復局面が続いている」(NHKニュース)と強弁している場合ではないように思うのですが…。

国内総生産:年率0.5%減、3四半期連続でマイナスに(毎日新聞)
続きを読む

中央線が遅れてメチャ混み

中央線がベタ遅れ。普段から雨の日は遅れるので、今日は15分の早めに駅へいったのですが、地震の影響?で武蔵野線が遅れてる、東西線は中野折り返し運転になるわで、中央線はメチャ混み。結局、駅へ着くたびに乗り降りに時間がかかって、そのままだらだら遅れて、いつもより10分遅れ…。ヘトヘトになりました。

それにしても、その超満員の電車のなかに、スタバのコーヒーをもち込んで飲んでいるネーチャンがいたのには、恐れ入った…。

ペンクラブの緊急集会

12日にひらかれた日本ペンクラブの緊急集会「いま、戦争と平和を考える」には400人を超す聴衆が集まったけれど、一般紙の報道はベタ記事扱い。しかし、今日の「東京新聞」夕刊は、文化欄で、それを詳しく報道しています。

阿刀田高氏

 もし日本が攻撃されたらとの仮定で語った阿刀田氏。「憲法のいう『諸国民の公正と信義』を信じていたら、変なのが来たらやられる。それは分かっている。でも私たちは戦争は悲惨であるとつくづく分かったのでこの憲法をつくった」。憲法が時代遅れと言われ、改憲論が強まる中で、敗戦後の憲法制定の初心に立ち返るよう呼びかけた。
 「平和憲法は、命を捨てても守っていいほど価値がある」とも言う同氏だが、それは他国の脅威を座して待つ姿勢ではない。「攻撃されないための外交努力は、とことんやってほしい」と、武力によらない政策展開をうながした。

吉岡忍氏

 政治家たちの言葉の危うさについては、吉岡忍氏も米中枢同時テロ以降のブッシュ米大統領と小泉首相の発言録をもとに分析。「一読して分かるのは感情的、情緒的な言葉が多いこと。根拠のなさをごまかすためどんどん感情的になっていくのがよく分かる」
 その根底にあるのは、すべてを単純化し、「善悪、白黒」といった二元論で割り切る態度だと同氏はみる。

辻井喬氏

 辻井喬氏は「平和」の概念を考え直す問いを発した。「平和とは、戦争をしていない状態でしょうか? グローバリゼイションの浸透で、昔の平和とは中身が変わった。石油文明的な、あこがれの生活を過ごし、戦争がなければいいと満足していていいのか。私たちの平和は戦争をなくす方向に働きかける平和か、グローバリゼーションで追いやられる人たちがいつか爆発する契機となる平和か、検証する必要がある」
 辻井氏はまた「平和が戦争を推進する方に乗じられるおそれがある。近くの国が核兵器を持つなら、私たちも平和のために核兵器を持つのか」との設問も示した。戦争と平和を問うことは、私たちの生き方そのものを問うこと。そう思わせる言葉だった。

ほかにも、ペンクラブ会長の井上ひさし氏や翻訳家の米原万里さん、アジ研の酒井啓子さんの発言なども紹介されています。文化欄のほとんど全部を費やしての報道、ほんとうにご苦労さまでした。

どうしたホリエモン!

ニッポン放送株の37.67%を取得したライブドアのホリエモン。1月からニッポン放送株を買い始めるなど、準備した上での株取得だったことが明らかになったけれど、いったい、それで何がしたいのか? それが見えてこない。

いろいろ発言しているけれど、それらはみんな、「自分がこうしたい」「こうすればもうかる」という話。そうではなくて、ニッポン放送をどうしたいのか、フジサンケイグループをどうしたいのか、それが見えないのが、反発を生んでいる一番の理由ではないだろうか。

ニッポン放送とライブドアの株価は続落傾向。とりあえず利益確定の動きとされているけれど、最初の勢いが止まったことは事実(その限りでは、フジテレビの「対抗策」は有効だった)。このままだと、投資はしたが、取締役会には入れず、しかもニッポン放送株の上場廃止ということになって、「人生最大の決断」は失敗に終わるかも…。

東証:ニッポン放送株、ライブドア株が続落(毎日新聞)
続きを読む

南アルプス市につづき中央アルプス市が…

駒ケ根市、飯島町、中川村の法定合併協議会が、新市名を「中央アルプス市」に決定。

そのうち、北アルプス市もできるか? でもって、やがて西アルプス市とか、東アルプス市とか、北南アルプス市とか、南北アルプス市とか、ほとんど、JR「浦和」駅シリーズみたいになったりして…。

自治の行方:合併後の新市名、「中央アルプス市」に 3市町村法定協/長野(毎日新聞)

※JR「浦和」駅シリーズ――現在、JR東日本には、「浦和駅」「南浦和駅」「北浦和駅」「武蔵浦和駅」「東浦和駅」「西浦和駅」「中浦和駅」と、「浦和」のつく駅が7つあります。
続きを読む

米政府、イラク駐留経費など819億ドルの補正予算

819億ドルの内訳は、米軍のイラク、アフガニスタンの駐留経費・装備強化に749億ドル、スマトラ沖大地震と津波支援に9億5000万ドル、イラク派兵の「有志連合」への見返り支援に4億ドル、パレスチナ支援2億ドルなど。他に、バグダッドに設ける米大使館の建設費用として6億5800万ドル、それとは別に7億1700万ドルの運営・警備費も計上されているそうな。

米大統領、819億ドルの追加支出を議会に要請(朝日新聞)
続きを読む

アメリカ、弾道ミサイル迎撃実験にまたまた失敗

今回は迎撃ミサイルが発射されなかったそうです。

「非常に軽微なソフト上の欠陥」が原因だそうですが、「非常に軽微なソフト上の欠陥」で迎撃できないようなシステムに、安全保障を賭けて対丈夫?

米国、弾道ミサイル迎撃実験に再度失敗(ロイター)
続きを読む

ハッピー・バースデー! コルボ/フォーレ「レクイエム」

ミシェル・コルボ(プ?グラムから)

一昨日に続いて、今日もミシェル・コルボのコンサートに行ってきました。今日は、オペラシティ・コンサートホールです。今日のプログラムは、以下の通り。休憩前の前半2曲は、予告と曲順が入れ替わっています。

  • ヴィヴァルディ:グローリア ニ長調 RV589
  • ヘンデル:ディクシット・ドミヌス(「主は言われた」) 詩篇110[109]
  • フォーレ:レクイエム op.48

今日のメインは、休憩後のフォーレ「レクイエム」。前半の2曲が18世紀(グローリアは作曲年不明だそうですが)の曲なのにたいし、「レクイエム」は1888年初演ということで、たった120年ほど前の新しい曲! 一昨日のバッハ「マタイ受難曲」をふくめ、同じ宗教音楽といってもずいぶんと違って聞こえました。
全体として、ゆっくりしたテンポ。とくに、第1曲の「入祭唱とキリエ」は特にそう感じました。ちょっとオーケストラの演奏がもたつく感じがするほど。しかし、ソプラノ独唱(シルヴィー・ヴェルメイユ)の第4曲「ピエ・イエズ」は、もうこれ以上にないほどの透明感ある声で惹き込まれました。また、第6曲「リベラ・メ」のバス(マルコス・フィンク)も、深く感じ入る響きで感動しました。
続きを読む

「好ましくない」といっておきながら…

NHKの橋本新会長が、2月3日の初の定例記者会見で、個々の番組を政治家に事前説明するのは「当然とは思っていない」と述べたことは、前に書き込みましたが、早くもその翌日に、「説明自体は悪いことではない」「お伺いを立てるようなやり方は問題だという意味だ」と自民党に釈明したようです。

NHK会長:自民に釈明――番組内容事前説明「お伺いは問題」と(毎日新聞)
続きを読む

投票率は結局58%

イラク国民議会選挙の開票結果が発表されました。イスラム教シーア派の「統一イラク同盟」が得票率48%で130余の議席を獲得。クルド人の「クルディスタン同盟」が26%、アラウィ暫定政府首相らの世俗シーア派の「イラクのリスト」は14%。スンニ派のヤワル大統領がひきいる「イラク人」は得票率2%に留まる。

で、投票率は、57.67%だったそうな。選挙直後に72%などという数字が飛び交ったけれども、60%に届かなかったということです。また、ファルージャを含むアンバル県の投票率はわずか2%。このへんが今後問題になりそうです。

シーア派連合が最多議席=投票率58%、国民議会選結果?クルド人2位・イラク(時事通信)

イラク議会選:シーア派会派 単独過半数超え確実に(毎日新聞)
続きを読む

女子ゴルフ第1回W杯、宮里藍・北田留衣ペアが優勝

6アンダーの首位タイでスタートした最終日、途中、北田選手がトリプルボギーをたたくなど苦戦をしたけれど、17番で2人揃ってバーディーをとり、見事優勝。

こういうのを見ていると、あらためてゴルフってメンタルなスポーツだと思います。

宮里・北田ペアが初代女王に W杯ゴルフ(読売新聞)
続きを読む

見に行かないといけないもの

しばらくサボっていた美術館通いですが、いろいろ見ないといけないものが溜まってしまいました。忙しい…

マルセル・デュシャン

ジョン・ベラミー・フォスター『マルクスのエコロジー』

マルクスのエコャ??ー表紙

ジョン・ベラミー・フォスター氏は、『独占資本主義の理論』(鶴田満彦監訳、広樹社、1988年)などの著書で知られるアメリカの経済学者。現在はオレゴン大学教授(社会学)。

で、この本は、最初は「マルクスとエコロジー」という題名で書かれる予定だったが、執筆の過程で「マルクスのエコロジー」に変わったという。著者によれば、マルクスに対するエコロジーの側からの批判は、次のような6点にかかわっている。

  1. マルクスのエコロジーにかんする記述は「啓発的な余談」であって、マルクスの著作本体とは体系的に関連づけられていない。
  2. マルクスのエコロジーにかんする洞察は、もっぱら初期の「疎外」論から生まれたもので、後期の著作にはエコロジーにかんする洞察は見られない。
  3. マルクスは、結局、自然の搾取という問題へのとりくみに失敗し、それを価値論に取り込むことを怠った。
  4. マルクスは、科学の発展と社会変革がエコロジー的限界の問題を解決し、未来社会ではエコロジー的問題は考える必要がないと考えた。
  5. マルクスは、科学の問題やテクノロジーの環境への影響に関心を持たなかった。
  6. マルクスは、人間中心主義である。

著者は、こうした見方が、マルクスが批判した相手の議論であって、マルクスのものではないことを明らかにしていくのだが、その詳細は省略せざるを得ない。

面白いのは、こうした問題とかかわって、著者が、自分のマルクス主義理解を問題にしていること。「私のエコロジー的唯物論への道は、長年学んできたマルクス主義によって遮られていた」(まえがき)と書いて、次のように指摘している。

私の哲学的基礎はヘーゲルと、ポジティヴィズム〔実証主義〕的マルクス主義に対するヘーゲル主義的マルクス主義者の反乱に置かれていた。それは1920年代にルカーチ、コルシュ、グラムシによって始められ、フランクフルト学派、ニュー・レフトへとひきつがれたものであった。……そこで強調されたのは、マルクスの実践概念に根ざした実践的唯物論であり、……このような理論の中には、自然や、自然・物質科学の問題へのマルクス主義的アプローチが入り込む余地はないように思われたのである。……私が自分の一部としたルカーチやグラムシの理論的遺産は、弁証法的方法を自然界に適用することの可能性を否定した。それは基本的に領域全体をポジティヴィズムの手に譲り渡すことになると考えたのである。……私の唯物論は、完全に実践的な、政治経済学的なものであり、哲学的にはヘーゲルの観念論とフォイエルバッハによるその唯物論的転倒から知識を得たものだったが、哲学と科学内部における唯物論のより長い歴史については無知だった。(本書、9?10ページ)

著者はまた、「唯物論を実践的なものにする際に、マルクスは自然の唯物論的把握への、つまり存在論的および認識論的カテゴリーとしての唯物論への一般的な関わりをけっして放棄しなかったということである」とも指摘している(同、23ページ)。
続きを読む

目の眩むような思い ミシェル・コルボ/マタイ受難曲

ミシェル・コルボ日本公演チラシ

今日は、ミシェル・コルボ指揮、ローザンヌ声楽・器楽アンサンブルの日本公演を聴きに行ってきました。ということで、一昨日についで、またまたサントリーへ。今日は、LB1の最前列ということで、舞台に向かって左手奥の席で、合唱団の斜め後ろから舞台を眺めるかっこうになりました。

演目は、バッハ:マタイ受難曲。午後6時開演で終演は9時を回る一大プログラムでした。

特徴的だったのは、第1部につづけて第2部に入り、第40曲のコーラスが終わったところで、休憩をとったこと。いちおう会場にその旨の張り紙があったんですが、お客さんにはほとんど伝わってなかったんでしょうね。第40曲が終わってもなかなか拍手が起こらず、コルボ氏が指揮台を降りて舞台袖に戻り始めて、ようやく拍手がわき起こるという次第になりました。
第40曲のところでというと、要するに、イエスが捕まってペテロが3度「あんな人は知らない」と言った直後に鶏が鳴く、それで「鶏が鳴く前に、あたなは3度私を知らないと言うだろう」というイエスの予言が成就したことを知り、ペテロが「私を哀れんでください」と泣いた後のところまでです。第41曲からあとは、いわゆる「処刑」の場面になるので、ここで休憩をはさんだというのは、ストーリー上は十分納得できるものです。

コルボ氏は明後日で71歳、一昨年大病をされたということでしたが、音の強弱、大小がはっきりしていて(それはコーラスも同じ)、メリハリを効かせた指揮で、全体としての演奏の流れが非常に分かりやすいと思いました。ソプラノの谷村由美子さんは、少し内にこもった(というと印象が悪いのかな)、丸みのあって、音が低くなるとちょっと聞こえにくくなったところはありますが、温かい声を響かせていらっしゃいました。カウンター・テナーのカルロス・メナも、高音で透き通った声を響かせ、なかなか印象的でした。
続きを読む