第2章「『経済学批判』プランの『賃労働』について(研究ノート)」
初出:『経済評論』1957年2月号
第1節 『資本論』における賃労働の分析
(1)“プラン”構想当初の「資本」「土地所有」「賃労働」では、「資本一般」では、「土地所有はゼロ」、賃労働の分析範囲も非常に限られていた。
『57-58年草稿』では、「労働日の自然的限界をこえる強制的な延長」や「女性や子供を労働人口に加えること」による剰余労働の増大(高木訳II、原著302ページ、大月版草稿集<1>521ページ下段)、労働市場の法則、「相対的人口」(高木訳III、457ページ。大月版<2>187ページ下段)、賃金形態などはすべて「賃労働」に予定されている。
58年「7冊のノートへの索引」でも59年「プラン草案」でも、「労賃」や「資本蓄積」の項目は、「資本一般」に入っていない。
『資本論』の成立過程で、絶対的・相対的剰余価値生産のもとでの労働者の状態、労働力の価値の賃金への転化が解明され、生産力発展・資本の有機的構成の高度化にともなう産業予備軍の創出とそのもとでの労働力需給の特殊な法則、「労賃の一般的な運動」、以上の総括としての労働者階級の窮乏化が基本的に示される。それによって、当初「賃労働」で予定されていたものの基本的解明は果たされた。
しかし、このことは、『資本論』が「賃労働」を完成したことを意味しない。「資本一般」の「全過程の姿にとっても生産そのものの独自な様式にとっても決定的なもの」であるかぎりにおいて、解明された。
(2)賃労働の分析は、『資本論』でもなお完成せず、残された。「資本一般」では、「競争の現実の運動はわれわれの計画の範囲外にあるものであって、われわれはただ資本主義的生産様式の内的編成を、いわばその理想的平均において示しさえすればよい」から。
そこで、なにが「賃労働」の項に残されたか。
資本と賃労働の基本的な関係を明らかにするために、生産的労働力が対象とされ、生産的労働でない賃労働とそれへの支払は「賃労働」の項に残された。(34ページ)
剰余価値論では、「単純な社会的平均労働」を前提に。労働力の価値規定についても、「労働力の自然的相違」(性別、成熟・未成熟)にかんする問題は対象から除外されている。賃金の様々な形態のたちいった分析は、「賃労働の特殊理論」に属すものとされる。
相対的過剰人口や賃金の運動が、産業循環の変動によって規定されることが、基本的に示される。しかし、「競争の現実の運動」はそれ自体としては分析対象にならないため、賃金の「現実の運動」は明らかにされていない。(35ページ)
「資本主義的蓄積の絶対的一般的法則」では、「社会的な敵対関係の発展度」つまり、現実の階級闘争などの事情は度外視される。
「労賃や労働日の平均化」「剰余価値率の平均化」や、それらがさまざまな要因によって妨げられる諸事情は「摩擦の研究」として、「労賃にかんする特殊研究」の課題だとされる。
(3)「資本一般」の体系では度外視された諸問題を「賃労働」の項で構成する場合に注意すべき点。
第1――資本と賃労働との関係にかんする『資本論』の基本的規定に立脚すること。その上で、資本の運動の「現実的」展開の分析に即して、それによって規定された賃労働の「現実的」・総括的分析を完成すること。プランでの「競争」以降をよりどころに。
第2――『資本論』での貴重な示唆を読み取る必要性。『状態』、『賃労働と資本』、「賃金」あるいは、自由貿易や10時間労働問題、トリビューン寄稿での恐慌・窮乏・階級闘争の「具体的」分析に学び、一般的法則がより「具体的」に現れる諸姿態を読みとる努力。(36ページ)
第2節 「賃労働」の構成
I)労働諸条件の現実的変動
(1)資本制生産の発展過程における諸資本の「競争の現実の運動」の影響。
(2)この過程で激化する労働者間の競争
(3)同時に他面で生まれる競争制限のための団結・闘争
を分析し、これらの総括として、労働諸条件の現実的変動を分析する。
II)搾取の諸機構の分析
資本が労働者の闘争を抑圧しつつ剰余価値を増加していく手段=搾取機構としての工場体制の分析。監督制、分業体制、就業規律、罰金制など。賃金のさまざまな形態、トラック・システムなど。
III)労働者階級の総体にかんする分析
資本制生産の発展にともなって不生産的労働者が増加する事情。
(1)商品生産の拡大、販売困難の増大、信用制度の発達による流通部門の拡張
(2)商品生産の発展にともなうサービスの賃労働化
(3)租税制度の確立による官吏・兵士等の雇用
それぞれの経済的・社会的役割、雇主との関係、労働諸条件の規定要因を分析する。
そのさい、(1)(3)から、利潤率の下落や各種サービスの利用のための利潤増加の欲求が生産的労働の搾取を強化する点。(3)から、全労働者および独立生産者の所得が削減される点、などに留意して、実態を解明する。
(※いまだと、これに社会保障の問題もくわわると思う…)
VI)賃労働の歴史的傾向にかんする分析
これについてはマルクスの指摘はないが、I) II)で深まる従属・窮乏からそれを止揚する条件を生み出す歴史的範疇としての賃労働の特質がある以上、この分析が必要だろう。
これに関連するのは、労働と教育の結合、家族全員の労働力化にともなう家父長制の解体、大工業のもとで強められる労働者の団結、他方での分裂・抑圧、不生産的労働者の動向を、資本主義的生産様式の止揚の諸条件の成熟として分析する。
I)労働諸条件の現実的変動の分析
(1)資本家間の競争
A.同一部門内での競争――i)利潤増加をめぐる競争(例外的な過度労働、平均以下への賃金の引き下げ、機械の「無形の損耗」の防止、不変資本充用上の節約、回転)。ii)販売・販路拡張をめぐる競争。iii)資本の集積・集中のもとでの競争。vi)市場の変動の影響。
B.異部門間での競争。
(2)労働者間の競争。
i)労働力供給の増加による競争の激化
ii)相対的過剰人口=産業予備軍の役割
iii)工場体制のもとでの競争
監督者を頂点として、熟練・性・年齢などによる分業体制と職務の評価。
不熟練労働にたいする低い評価と過度競争、著しい低賃金。
(3)労働者の団結・闘争((1)(2)への反作用)
まだまだこの項続く…。