関志雄『中国経済のジレンマ』

関志雄『???経済のジレンマ』(ちくま新書)

著者の関志雄(カン・シユウ)氏は、1957年香港生まれ。東大大学院を卒業し、現在、野村資本市場研究所シニアフェロー。これまでに『円と元から見るアジア通貨危機』(岩波書店、1998年)、『共存共栄の日中経済 「補完論」による実現への戦略』(東洋経済新報社、2005年)などの著書と、『中国未完の経済改革』(樊綱著、岩波書店、2003年)の翻訳などがあります。今年5月には、『中国経済革命最終章―資本主義への試練』(日本経済新聞社)も刊行されていて、本書は、その簡約版といったところでしょうか。

第1章から第3章までで、「改革開放」政策の概要を紹介。第4章から第7章までで、外資導入、国有企業民営化問題、国有銀行改革、人民元切り上げという中国経済の当面する改革課題を明らかにしています。最後の2章は、こんごの発展方向を明らかにしたもので、第8章では国内の「調和のとれた発展」という問題を、第9章では、対外的な「平和台頭」論をとりあげています。

サブタイトルに「資本主義への道」とあるように、著者は、政権は「社会主義初級段階」と言っているけれども、実態は「資本主義の初級段階」だ、したがって現在の「改革・開放」経済が発展すれば、「社会主義の高級段階」ではなく「資本主義の高級段階」になる、という立場。といっても、単純に市場経済化=資本主義という訳ではなく、「高級な資本主義」ということで、「市場万能主義」ではなくヨーロッパ型の資本主義をめざすという趣旨で、そこには、中国共産党が第16回党大会以来追求している「調和のとれた発展」という路線が定着しつつあることを見て取ることができます。

他方で、市場経済のもたらす弊害や資本主義が本来もつ危険性にたいする警戒心がほとんどない?のも、今日の中国の理論の弱さの反映でしょうか。資本主義が発展すれば、おのずと“調和のとれた”「高級な資本主義」になるかのようで、市場経済の中で、何が社会主義への発展を規定づける要素となる(なりうる)のか、社会主義的要素がどうやって“社会主義らしさ”を発揮していくのか、といった角度からの探求はほとんど見られません。

ちまたで流布する中国論というと、「中国経済はめちゃくちゃ、もうすぐ破綻する」という崩壊論か、「中国が大国化すれば大変だ」という脅威論かがほとんど。そのなかで、「調和のとれた発展」と「平和台頭」という2つの発展方向から中国経済の現状をわかりやすく紹介しているのは、やっぱり中国人研究者ならではと思います。ともかく、WTO加盟、人民元の切り上げあたりまでを繰り込んだ、最も新しい中国経済の紹介です。それが「資本主義への道」だというところを除けば、中国の「社会主義市場経済」の理解に役だつ一冊だと思います。

【書誌情報】著者:関志雄/書名:中国経済のジレンマ――資本主義への道/出版社:筑摩書房(ちくま新書559)/出版年:2005年10月/定価:本体740円+税/ISBN4-480-06269-6

作成者: GAKU

年齢:50代 性別:男 都道府県:東京都(元関西人) 趣味:映画、クラシック音楽、あとはひたすら読書

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