「事業仕分け」への憂慮

岡本稔「事業仕分けの行方」(東京交響楽団 Symphony 2010年1月号)

昨日は、新年最初のコンサートということで、東京交響楽団のサントリー定期演奏会に行ってきました。演奏の方はさておき、会場でいただいたプログラムに、音楽評論家の岡本稔さんと、東京交響楽団最高顧問の金山茂人さんが、昨年末の「事業仕分け」について並んで書かれていました。

岡本氏は、国の補助を「いつの時点でゼロにできるのか、見通しを示せ」という「仕分け」人の発言に、「このコメントを述べた人は、ヨーロッパの歌劇場の予算の過半数を国をはじめとする公共団体の補助が占めていることをご存じないのだろうか」と厳しく批判されています。

ということで、プログラムだけで終わらせるのはもったいないので。

事業仕分けの行方 新国立劇場につきつけられた指摘

岡本 稔(音楽評論家)

行政刷新会議「事業仕分け」――日本芸術文化振興会編

 「事業仕分け」という言葉を耳にしない日はない。ただ、ニュースに耳を傾けているならば、行政の無駄がいかに多かったことを「再認識」し、痛快な思いを抱いたのは私だけではないだろう。しかし、スーパー・コンピュータの予算を拒否したあたりから、何やら雲行きが怪しいと感じ始めた。そこで、文部科学省のホームページに掲載された新国立劇場を統括する(独)日本芸術文化振興会関係の「評価者のコメント」をのぞいてみた。
するとそこに並んでいる驚愕のコメントに目が点になった。
●(財)新国立劇場運営財団、(財)おきなわ運営財団への業務委託をする意味がわからない。
●新国立劇場運営財団は廃止。 (後略)
 以上については組織的な問題で、公演水準が保たれるのならば文句をつける筋合いのことではないだろう。とはいえ、諸外国のオペラ・ハウスの運営形態は有限会社から州立、国立とさまざまだが、高い独立性をもっているのは確かである。
 思わず言葉を失ったのが次のコメントである。
●寄付が伸びるような文化政策の動機づけが見えない。いかに芸術文化といえども数百億円の国費を投入する以上、いつの時点で投入額をゼロにできるのか、見通しを示せなければ厳しい評価をせざるを得ない。
●寄付を集める仕組み作りの努力が不足している。国が補助するというのは知識不足。そもそも文化振興は国の責務か、民間中心で行うか、議論が必要。
 このコメントを述べた人は、ヨーロッパの歌劇場の予算の過半数を国をはじめとする公共団体からの補助が占めていることをご存じないのだろうか。オペラという非常に金がかかり、経済的にはきわめて非効率な芸術が補助金なしで運営するのは絶対に不可能である。アメリカの場合、公的補助金に頼ることなく個人や企業の寄付金が多くを占めているが、それは寄付金が税の控除対象になっており、寄付という行為が社会に深く根づいていることによる。こうした事実を全く踏まえないでコメントしているとするならば、仕分け人として失格と言わざるを得ない。「いかに芸術文化といえども数百億円の国費を投入する以上、いつの時点で投入額をゼロにできるのか」というくだりをそのまま受け入れるとするならば、いずれ劇場を閉鎖するしかない。
 ここでご紹介したコメントは国民の大多数が目にするとそのまま受け入れ、納得できる内容なのだろう。造形美術と異なり、舞台芸術や演奏芸術というものは上演してしまうとそのまま後を残すことなく消えてしまう宿命にある。金銭に換算できる資産価値として残ることはない。それを経済効率のみで論じるには無理があるのは言うまでもない。いっぽう筆者は海外の著名な舞台芸術関係者から日本の劇場運営が必ずしも効率的ではないという指摘を受けたことがある。その部分での「仕分け」は考慮すべきところもあるのではないだろうか。この外圧を日本における舞台芸術の在り方を考える上で一つの契機ととらえたい。
 行政刷新会議の「とりまとめコメント」は「独立行政法人・日本芸術文化振興会関係については、圧倒的に予算を縮減したいというのが私たちのチームのまとめである。」と結論付けている。興味のある方は文部科学省のホームページを参照され、そこからぜひご自身の意見を投稿していただきたいと思う。
http://www.mext.go.jp/a_manu/kaikei/sassin/1286925.htm

また、金山氏は、日本オーケストラ連盟副理事長として、翌日、ピアニストの中村紘子さんをはじめとする音楽家の記者会見を開いたり、たまたま帰国中だった小澤征爾氏に、民主党・小沢一郎幹事長との会談に臨んでもらったりと、忙しく取り組んだことを紹介されるとともに、中国や韓国の文化予算が日本の5倍、イギリス6倍、フランス10倍などの数字も紹介されて、「大体文化省もない文化大臣もいない国なんて先進国では皆無だし、アジアでも珍しい」「世界からみて日本という国は異様に見えるのではなかろうか」と指摘されています。

民主党政権のやり方にたいする危機感が、とくに文化方面ではいろいろと広がっているようです。

作成者: GAKU

年齢:50代 性別:男 都道府県:東京都(元関西人) 趣味:映画、クラシック音楽、あとはひたすら読書

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