失業率が下がったといっても喜べない…

総務省統計局から9月の労働力調査の結果が発表されました。完全失業率(季節調整済み)は4.1%で、前月比0.2ポイント下落しています。

これについて、「日本経済新聞」は「改善」の見出しをつけていますが、実際には、とても喜んではいられません。

9月の失業率、4.1%に 0.2ポイント改善:日本経済新聞

それは「しんぶん赤旗」日刊紙の本日付6面でも、次のように指摘されています。

 就業者数は前年同月比33万人減の6276万人、完全失業者数は同65万人減の275万人でした。就業者数も完全失業者数も減少している中で、非労働力人口が85万人も増加しました。

つまり、失業率は低下したけれども、それは就業者が増えたからではなくて、非労働力人口がが増えたために、失業率を計算する場合の分母になる「労働力人口」が、失業者が減った以上に大きく減ったからだということです。

ご存知のとおり、失業統計では、完全失業率は次のように計算されます。

 完全失業率=完全失業者÷労働力人口×100%

で、その労働力人口は就業者+完全失業者で求められます。

さらに、失業者にカウントされるためには、ただ失業しているだけではダメで、「仕事を探す活動や事業を始める準備」をしていなければなりません ((総務省統計局「労働力調査」用語の解説参照。))。だから、「いくら職探しをしても全然見つからない」と言って求職活動をあきらめたり、「仕事があるなら働きたいんだけど、いまは探しても無理」と思って具体的に仕事探しをしていない人は失業者には含まれず、「非労働力人口」にカウントされてしまうわけです。その結果、景気がうんと悪くなると、職探しをする人が減って、失業者が減り、失業率が下がるという怪奇現象がおこることがあるのです ((もちろん、逆に景気がよくなってきたときにも、いままで職探しをあきらめていた人があらたに職探しを始めるために、一時的に失業率が上がるということも起こります。マスメディアでは、こちらのケースについてはしばしば指摘されるのですが、景気が悪くなったときに見かけ上失業率が下がる怪奇現象については言及されることが少ないので、念のため。))。

ちなみに、「日本経済新聞」は、失業率「改善」の見出しだけでなく、就業者数や非労働力人口についても「就業者は5973万人で、前月に比べて30万人増えた。8月は定年や職探しをあきらめて労働市場から退出した非労働力人口が20万人増えたが、9月は減少に転じた」と書いていますが、これらはいずれも「前月に比べて」の数字であることに注意してください。

9月の失業率、4.1%に 0.2ポイント改善

[日本経済新聞 2011/10/28 11:11]

 総務省が28日発表した9月の完全失業率(季節調整値、全国ベース)は4.1%となり、前月に比べて0.2ポイント改善した。厚生労働省が同日発表した有効求人倍率も0.67倍と、4カ月連続で上昇した。東日本大震災の復興需要やサプライチェーン(供給網)の回復などで、雇用情勢は持ち直しの動きを続けている。
 総務省の労働力調査は震災の影響で、8月分まで岩手・宮城・福島を除いて公表していた。9月分からは被災地の8割で調査が再開できたため、全国ベースで数値を公表する。前月と比較可能な被災3県を除く失業率も同じ4.1%だった。
 完全失業者数は「被災3県を除くベース」で254万人になり、2カ月連続で前の月を下回った。解雇などで仕事を失った人、自発的に仕事を辞めた人は共に減少した。就業者は5973万人で、前月に比べて30万人増えた。8月は定年や職探しをあきらめて労働市場から退出した非労働力人口が20万人増えたが、9月は減少に転じた。
 ただ、厚労省がまとめた9月のハローワークでの職業紹介状況によると、新しく寄せられた求人を示す新規求人数は1.5%減の66万人。3カ月ぶりのマイナスだった。同指標は雇用の先行指数になっており、円高や海外経済の不透明感から、足元には積極的な求人を手控える動きもある。

普通、失業者数や失業率は季節変動がある(4月は大学・高校等の新卒で、しかし卒業までに就職先が見つからないという人が多いので失業率が高くなるとか、夏は行楽地などでのアルバイトなどがあるので失業率が下がるとか)ので、通例は前の年の同じ月の数値と比較(「前年同月比」といわれるもの)します。失業率については、この季節変動を統計学的に調整して「季節調整済み」という数値を求め、それによって前月比で0.1ポイント上がったとか0.2ポイント下がったという比較ができるようにしていますが、完全失業者数や就業者数、非労働力人口などの実際の数については、単純に前月比で増えた、減ったといっても、季節的一時的なものなのか、景気の変化による趨勢的なものなのかがわからないので、前年同月比で改善したか悪化したかを判断するわけです。

ですから、総務省統計局の発表資料でも、「就業者数は6276万人。前年同月に比べ33万人の減少」「雇用者数は5483万人。前年同月に比べ28万人の減少」「完全失業者数は275万人。前年同月に比べ65万人の減少」と、すべて「前年同月比」で増減を明らかにしています。

しかし、それでは、「しんぶん赤旗」の記事が指摘しているように、失業率が下がったといっても、実際には就業をあきらめた人が増えただけだということがわかってしまうので、わざわざ数値的に改善されているものを探して、通常はやらない「前月比」で就業者数や非労働力人口が減りましたと報道しているのです。

ということで、こういう統計は、新聞報道だけですませず、発表された統計データそのものを確かめてみることが大事なのです。

ちなみに、総務省統計局「労働力調査」の詳細はこちら↓で見ることができます。

統計局ホームページ/労働力調査

作成者: GAKU

年齢:50代 性別:男 都道府県:東京都(元関西人) 趣味:映画、クラシック音楽、あとはひたすら読書

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