中村政則『戦後史』(岩波新書)

並??政則『戦後史』

日本経済史の中村政則先生の最新著です。新書1冊で、激動の戦後60年を総まくりしようという、およそ類書のない大胆な著作です。

本書の構成は、以下の通り。

序 章 「戦後史」をどのように描くか
第1章 「戦後」の成立(1945?1960年)
第2章 「戦後」の基本的枠組みの定着(1960?1973年)
第3章 「戦後」のゆらぎ(1973?1990年)
第4章 「戦後」の終焉(1990?2000年)
終 章 新しい戦争の中で―「戦後」とは何だったのか

で、著者ご本人の説明によれば、本書の特徴は、<1>「貫戦史(Trans-war histry)」という方法と、<2>目次を見ても分かるように、1960年を画期として「戦後史」をとらえる「1960年体制」論、それに<3>文献資料や先行研究をベースにした叙述の合間合間に、著者の生活体験やら「聞き書き」などを挿入するという叙述スタイル、にあるそうです。

実際、研究蓄積という点では、いわゆる歴史学の分野にとどまらず、山のように先行研究があるわけで、それらをおさえつつも、60年の歴史を詳細に書き連ねるというのではなく、上記4つの時期区分(段階区分?)にそって、それぞれの時期の特徴を浮かび上がらせるようになっています。

で、僕自身、戦後史は1960年で区切るべきだと思っていたので、先生の「1960年体制」論には大賛成。いわゆる「55年体制」論について、先生は、本書の中で、「55年体制」という言い方自体が60年代になって登場したと指摘されていますが、1950年代は過渡期と見るべきだという指摘には全く大賛成です。

他方で、いわゆる「高度成長」からの曲がり角をいつに見るかという点では、先生は1973年で区分されているわけですが、僕はむしろ1979年の第2次オイルショックにおくべきではないかと思うのですが、どうでしょうかねぇ。理由は、第1の画期と同じで、1970年代は、全体として、「高度成長」から「高度成長」後の社会への過渡期だと思えるから。確かに60年代末から「高度成長」の歪みが明らかになり、第1次オイルショックで「高度成長」が終焉を告げたことは事実ですが、「高度成長」的な政治スタイルが変化を見せるのは、やっぱり第2次オイルショック以降だと思うのです。要するに、「高度成長」的諸条件が失われたことに、政治が追いつくのに70年代いっぱいかかったということではないかと思うのです。昔、70年代に日本は2つの曲がり角を曲がったのではないかと考えたことがありましたが、そういうふうにいえば73年と79年が2つの「曲がり角」になるわけで、まあ、どっちがどっちということでもないのですが…。

大急ぎで読み終えてみて、いろいろ細かいところで少し異なる意見や感想を持つところもありますが、一番大きな問題は、80年代以降、国民の政治意識は「保守化した」(155ページ)として論じていること。僕自身は、佐々木潤之介先生が指摘されたように「現在、日本の民衆に、変革意識が萎えているとは、私は全く思わない」(『近世民衆史の再構成』100ページ)という見方をあくまでつらぬきたいと思っています。この点については、佐々木潤之介『江戸時代論』に収録された安丸良夫先生の「佐々木潤之介さんの人と学問」425ページを参照。そこで安丸先生が、「佐々木さんからすれば」と紹介されているように、問題は、「現代の民衆もそれぞれにたたかいつつある」のであって、それが「これまでの階級闘争史の方法ではとらえきれないだけ」であって、したがって「考え直さなくてはならないのは、私たちのこれまでの方法なのではないだろうか」という指摘に従って考えたいと思うのです(佐々木潤之介『近世民衆史の再構成』131?132ページ)。

もう1つは、旧ソ連の崩壊について、どんなスタンスをとるかという問題です。中村先生は、ソ連崩壊で「社会主義とマルクス主義イデオロギーの影響力が決定的に低下した」と書かれていますが、問題は、それでは、それにたいしどういう態度、立場をとるのかということです。僕自身、別段、古い「マルクス主義イデオロギー」を墨守しようというつもりは全くありません。マルクス主義の擁護を自己目的にするつもりもさらさらありません。しかし、「マルクス主義イデオロギーの影響力の決定的低下」にたいして、だからマルクス主義以外のもの(あるいはマルクス主義以外の方向)に打開の道を求めるのか、それとも、あくまでマルクスの立場に立って、その立場から、マルクス主義とは何かということの自己検討を含めて、新しい探求を始めるのか、ということです。

ということで、この本では、随所に参考文献があげられています。それらを含め、中村先生がなぜこんなふうに「戦後史」を考えたのか、そして僕自身がどんなふうに「戦後史」を考えればよいのか、よく考えてみたいと思います。また、この本はことし5月までに書かれたものなので、読み終えたところで、今度の解散・総選挙、小泉・自民党の圧勝を先生がどう見ておられるのかぜひ伺ってみたいものだと思いました。

最後に。それにしても「貫戦史」的方法というのが一体何なのか、それはよく分かりませんでした。(^_^;)

追記(12/3)。最近、短い紹介原稿を雑誌『経済』2006年1月号に書きました。

追記2:『戦後史』全体をどう読むか、もう少し詳しく書きましたので、こちらの記事(「新刊紹介の原稿をアップしました」)もご覧ください。

【書誌情報】著者:中村政則/書名:戦後史/出版社:岩波書店(岩波新書 新赤版955)/発行:2005年7月/定価:本体840円+税/ISBN4-00-430955-7

作成者: GAKU

年齢:50代 性別:男 都道府県:東京都(元関西人) 趣味:映画、クラシック音楽、あとはひたすら読書

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