『労働経済白書』 若者の所得格差の拡大認める

2006年版の『労働経済白書』が発表されました。「収入の低い労働者の割合が増え、若年層で収入格差の拡大の動きが見られる」と指摘するとともに、とくに20歳代でパート、アルバイトや派遣など非正規雇用が増え、「将来の所得格差が広がる可能性がある」と懸念を表明しています。

20代の所得格差広がる 労働経済白書 (朝日新聞)
若年層の収入格差が拡大…労働経済白書(読売新聞)
若者の非正規雇用が急増・06年版労働経済白書(NIKKEI NET)
正社員との収入差拡大 労働経済白書 少子化加速の一因に(東京新聞)

20代の所得格差広がる 労働経済白書
[asahi.com 2006年08月08日11時46分]

 派遣やアルバイトなど非正社員が多い20代で所得格差が広がっていることが、厚生労働省が8日まとめた06年版「労働経済の分析」(労働経済白書)で分かった。20代では年収150万円未満の人が増えて2割を超える半面、500万円以上の人も増加。また正社員も成果主義の影響で賃金の差が広がり、40代後半では最も高い層と低い層の月収差が30万円を超えた。白書では、格差を固定化させないための対策の必要性を訴えている。
 白書は8日の閣議で、報告された。
 90年代以降、非正社員は全年齢層で増加してきたが、特に若者で上昇している。年齢別の比率は92年からの10年間で、20?24歳では10.7%から31.8%と約3倍。25?29歳では11.6%から22.7%に増えた。
 この間の20代の年収は、150万円未満の層が15.3%から21.8%に増えた。150万以上?400万円未満の層は、いずれも92年より02年が下がった=グラフ。一方で、500万円以上が2.9%から3.2%と20代で格差が広がる傾向になっている。
 白書では、所得が低く親と同居している非正社員の若者が、今後自立しなければならなくなったときの格差の拡大や固定化などを懸念している。
 そのため、非正社員から正社員への道筋作りや、非正社員でも自立できる賃金などの処遇の改善、企業の人材育成システムを非正社員にも広げる必要性を強調した。
 また、正社員の所得格差の拡大も顕著になった。
 大企業の大卒男性正社員の月給について、90年と00年からの5年平均の賃金分布を10段階に分け、最も高い層と最も低い層を比べたところ、40?44歳では、その差が、月給で約21.4万円から26.8万円に、45?49歳では24.2万円から30.9万円に広がっていた。業績・成果主義の能力評価の影響とみられる。
 白書では今後の三つの課題として(1)どのような働き方を選んでも意欲がもてる公正な処遇の整備(2)格差の固定化を防ぐ職業能力開発の充実(3)若者が自立できる社会的支援――を挙げた。

若年層の収入格差が拡大…労働経済白書
[2006年8月8日12時1分 読売新聞]

 厚生労働省は8日、2006年版「労働経済の分析」(労働経済白書)を発表した。
 雇用契約期間が短い非正規雇用などの増加により、20代の若年層を中心に収入の格差が拡大していることが明らかになった。白書は、収入が少ない若年層が増加したことが結婚の減少につながり、少子化を促進させていると分析。少子化対策の観点からも若年層雇用の安定が重要だと強調している。
 06年1?3月期の15歳?34歳の非正規雇用者数は595万人で、前年同期比34万人増だった。これに対し、正規雇用者数は19万人減の1248万人。03年と比較すると、非正規雇用者数は53万人増加した。最近の景気回復で雇用環境はよくなっているものの、依然として若い世代を中心に非正規雇用は増加傾向にある。
 非正規雇用の増加が収入格差につながっていることも浮き彫りになった。近年の雇用状況の分析はまだ続いているが、働く20代のうち、年収が150万円に満たない低収入層は02年は21.8%と、1992年より6.5ポイント増加した。これに対し、年収500万円超の層は3.2%で0.3ポイント増、そのうち700万円超は0.5%で横ばい状態で、総じて収入格差は広がっている。
 20?34歳で配偶者がいる割合を雇用形態の違いで比較すると、正規雇用と比べて「非正規雇用」がほぼ半分、「パート・アルバイトなど」は約3分の1にとどまった。収入が少ないことが、結婚の障害となっていると見られる。白書は「少子化の主因は若年層を中心に配偶者がいる人が減ったこと」と分析している。
 一方、大手製造業に勤める大卒の男性社員の賃金の分析では、能力・成果主義による評価が定着してきたことで、30代?40代にかけて賃金格差が拡大する傾向が見られた。
 白書では、正当な能力や業績評価に伴う賃金格差の拡大については、「労働意欲を高める」と評価しながらも、人件費抑制を目的とした若年層の非正規雇用増加に関しては、「長期的・継続的視点を欠く」と厳しく批判している。

若者の非正規雇用が急増・06年版労働経済白書
[NIKKEI NET 2006/08/08 10:43]

 厚生労働省は8日、2006年版労働経済の分析(労働経済白書)を公表した。景気回復で雇用情勢は改善しているが、パート、アルバイトや派遣など非正規雇用の比率が20歳代で高まり、「将来の所得格差が広がる可能性がある」などと懸念を表明。婚姻率の低下や少子化にも影響があるとみており、正社員への移行や職業能力訓練の機会を増やし、「格差の固定化を招かない」ことが重要と指摘した。
 企業などに勤める雇用者のうち、非正規雇用の割合は20―24歳で最も高く、最新調査(2002年)では31.8%と前回(1997年)よりほぼ倍増した。白書は「収入の低い労働者の割合が増え、若年層で収入格差の拡大の動きが見られる」と分析した。
 34歳以下の男性の場合、正規雇用者で結婚している人は39.9%だったのに対し、非正規雇用者では13.5%にすぎない。収入の低さと不安定な雇用が結婚をためらわせ、少子化の一因となっていることをうかがわせた。

正社員との収入差拡大 労働経済白書 少子化加速の一因に
[東京新聞 2006年8月8日]

 厚生労働省は8日、2006年版労働経済白書を発表した。アルバイト、パート、派遣労働など正社員以外の働き方が若年層を中心に広がり、正社員との収入格差が拡大していると指摘。「非正規雇用」の男性従業員は、正社員に比べ結婚していない人が多く、少子化を加速する一因になっていると分析した。
 白書が格差拡大の背景に、雇用制度の変化があるとの見方を示したのは初めて。
 非正規雇用の負の側面の解消策として、短時間就労の正社員制度の導入、パート社員などの技能教育、職業訓練などを、官民共通の重要課題と位置付けた。
 白書は、日本企業は非正規雇用を増やすことで人件費削減や生産体制の変更がやりやすくなり、国際競争力の回復に役立ったとしている。
 だが、30歳代前半の男性の場合、正社員として働いている人の59%が既婚者だった。これに対し、非正規雇用の男性で結婚している人は30%程度にすぎず、収入が正社員に比べ少なく、雇用が不安定なことが、結婚を難しくしていることをうかがわせた。
 最近の賃金上昇については、勤務形態によってばらつきがあると説明。非正規雇用者が、正社員に移行できる仕組みをもっと広げなければ、収入格差が固定しかねないと強調した。
 一方、正社員に関しては、仕事の成果に応じて賃金や処遇を決める方式が普及し、30?40歳代の賃金格差が拡大した。
 その半面、中途採用者が能力に応じて評価されるなど「成果主義は有効に機能している」との見方を示した。

<メモ>非正規雇用者

 正規の職員や従業員に対し、パート、アルバイト、派遣など短期契約で働く人たちを指す。人員を増減させやすく、社宅や年金負担など雇用に伴って生まれるさまざまな費用を抑えることができるため、1990年代後半から多くの企業が積極的に導入した。労働関連法も改正が相次ぎ、対象業種の拡大などの規制緩和が進んだ。
 若者や女性の雇用機会を広げ失業の増大を防ぐ効果はあったが、給与水準が低く、正規雇用への移行も難しいといった問題がある。

作成者: GAKU

年齢:50代 性別:男 都道府県:東京都(元関西人) 趣味:映画、クラシック音楽、あとはひたすら読書

3件のコメント

  1. ピンバック: 関係性
  2.  Gakuさま、おはようございます
     「政府の少子化対策の稚拙さ」をTBさせて頂きました。
     政府のものの見方は少子化の解消に、老人福祉費を削って家庭・子供向けの予算を計上するという単純な物の見方をしています。
     しかし実態は、「若者の所得格差拡大」という根本があり、同時にその先行きへの不安感の増大です。これを解決せずして、小手先の施策で対応しようとしていると思います。
     国際競争力は輸出主体の大企業が獲得したのも、政府による円安誘導(税金投入)と労働者への非正規雇用の拡大の成果だと思います。
     結局、庶民が頼れるものは全く無いと考えてしまいます。

  3. ピンバック: 関係性

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