ホワイトカラー・エグゼンプション制度をめぐる攻防?!

経済同友会の北城会長は、記者会見で、ホワイトカラー・エグゼンプション制度について「この制度を導入すべきという方向性には我々も賛成」「基本的方向は是非実現していただきたい」と発言。厚生労働大臣は、対象を年収900万円以上とすると発言。塩崎官房長官は、「法案の提出に向けていっそう努力していく」と発言。

与党内での慎重論が強まっていると言われていますが、財界も、厚労省も、官房長官も実現をめざすと強調しています。努々ご油断めさるな!

記者会見発言要旨(未定稿):経済同友会(2007年1月10日)
対象は年収900万円以上 労働時間規制除外で厚労相(東京新聞)
労働時間規制除外 法案へ努力(NHKニュース)

Q: ホワイトカラー・エグゼンプション導入に慎重な声が相次いでおり、一部には、このままでは通常国会への改正法案提出も見送るのでは、という報道もある。経済同友会としては、昨年の意見書で慎重に議論すべきという見解だったが、改めてお考えを伺いたい。

北城: いわゆる時間に拘束されない仕事をするホワイトカラーについて、この制度を導入すべきという方向性には我々も賛成しており、いずれかの時点で、ホワイトカラーの新しい働き方に対する制度ができることを期待している。一方で、本来自らの裁量で仕事をし、その成果で評価されるという仕組みであるにもかかわらず、残業代を支払わないための制度であるという誤解もあるので、誤解を解くための活動をしたうえで成立することが望ましい。基本的方向は是非実現していただきたいと思うが、国民の理解が進むような議論が、今後進展することを期待している。

Q: いま随分議論が盛り上がっているが、これで国民の理解が進めば、今度の通常国会で成立、導入ということもあり得る、ということか。

北城: 基本的な方向は賛成している。ただし、議論の過程で、例えば一律に年収400 万円以上は導入ということが言われているが、そういうことではないのではないか。仕事の性格や内容に応じて決めるべきだし、業種・業界によっても給与水準は違うので、仕事の内容で成果を把握できる仕事に就いているホワイトカラー、勤務時間の長さで成果が決まるような職種ではない分野の仕事をする人について、こういう制度を導入すべき、という考え方だ。

Q: 今回の通常国会で法案を提出しながら、引き続き国民の理解を得る作業が必要だということか。

北城: 法案を国会に提出するか、提出せずに議論するかは、政府・与党で判断することだ。この制度そのものの趣旨は、時間の長さではなく、仕事の成果に応じてホワイトカラーの仕事を評価していくということだ。長時間勤務ではなく、短時間でも良い仕事をすれば十分評価される。この制度は、ワークライフ・バランスなどを議論するなかで、非常に重要な労働法制だと思っている。長時間の残業代支払い(を回避する)ための手段ではないかという誤った意見もあるなかで、これ(法案提出)を強行することが適切かどうかを政府・与党で判断いただきたい。基本的な方針としては進めるべきだと思うし、単純に年収で切れる問題ではないので、仕事の性格や内容に応じて個別企業の労使で決めていく方向が望ましい。

Q: 年収一律ということは経済界からの提言であり、それがあるゆえに問題が複雑化して、制度の導入に支障が起きているという印象をお持ちか。

北城: 高度な専門職ということを客観的に規定するために年収基準を入れたらどうか、ということで始まった議論だと思う。ホワイトカラー・エグゼンプションの趣旨においては、自らの裁量で働くことができるような高度な専門職ということなので、仕事の性格を前提に議論したほうがよいと思う。非常に低い給与水準で、成果に応じて処遇ができるという職種は実体としてはないと思う。ある程度処遇の高い人という議論だと思うが、年収一律で決めるよりも、仕事の性格や給与水準は業種や企業規模によって異なるので、個別企業で判断できる柔軟性のある制度がよいと思う。

Q: 慎重論を言っている方々の中には、「経営者側からの説明が十分ではなく、これはやはり残業代カットではないかという誤解を多くの人が持っている」という懸念が出ている。

北城: よく説明していくべきだし、そうした実情もマスコミや労働界も含めて、理解を得るような方向が必要だと思う。

Q: 代表幹事自身も(説明が)足りなかったとお考えか。

北城: そのようなことはない。労働法制として重要な法案なので、よく議論をして理解を得たうえで導入したほうが良いと思う。

小島: 世の中の理解が進んでいないだけではないか。本当にそう思っているかどうかは分からないが、こういうことを認めると、単に残業代をつけない仕組みを経営者が入れようとしている、と、少なくとも疑われてはいる。そこにひとつの問題がある。常識的に考えると、そうした仕組みを入れる際には、これまでの残業実績を加味して賃金水準が決まるはずだが、そういう経営者ばかりではないと言われればそうかもしれない。こうした色々な誤解の積み重ねがあると思うので、しばらく理解を求める努力が必要なのではないか。

北城: 裁量労働制導入の段階で、ある程度想定した勤務時間に応じ、残業手当も含めて処遇を決めている。低い処遇のままで、単に残業代を無くすための制度であるというのは、誤解以上に、こういう制度に反対する人たちが言っている議論だと思う。要するに、成果に応じて処遇するという考え方に反対である、成果が上がるかどうかにかかわらず勤務時間で給与を払って欲しい、という人からすれば、この制度は好ましくないと思われるかもしれない。

北城:日本がこれから、知識やノウハウに基づいた知的社会を作っていくとすれば、知的労働について時間の長さで評価するということは、全くそぐわない。例えば、研究者、芸術家、あるいは記者もそうかもしれないが、時間の長さではなく、どのような仕事をしたかが重要な社会に変わっていく。日本の労働法制についても、工場で働く人が勤労者の主体であるという発想を変えていく必要があると思う。

Q: 年末の労働政策審議会では、ホワイトカラー・エグゼンプションと同時に時間外の割増賃金も認められているが、これについてはどうお考えか。

北城: この議論には二つの色彩がある。時間外賃金が高くなることで短時間の労働になるのではないか、ということと、逆に時間外賃金が高いのでそれをあてにして収入を増やしたいという人が出てくる懸念がある、ということだ。時間外賃金の割増率を増やせば残業時間が短くなるほど単純な問題ではない。ワークライフ・バランスも考えて、長時間労働は好ましくない、という発想の下で制度を作っていくべきであり、(賃金を)引き上げれば(残業が)減るだろうということではないと思う。

Q: そういう方向性が、審議会の場でホワイトカラー・エグゼンプションとセットのような形で出されているが。

北城: その辺りが誤解の原因ではないか。残業代をなくすためではないかという議論になってしまうので、制度の趣旨をよく考えた方がよい。ホワイトカラー・エグゼンプションというのは、成果に応じて処遇する人の仕事の内容については時間で管理するものではない、という発想が必要だ。時間を越えたら残業代の対象になるのは、例えば自動車の組み立てラインで8 時間勤務していた人が、9 時間、10 時間と働けば成果が増えるので、そうした職種については残業代の対象にすべきだ。しかし、知的な作業、例えば我々(IT 産業)においては、システムを設計する、ソフトウェアを作成する、インターネットのコンテンツを作るといった仕事は、時間の長さではなく、どのようなものができたかが重要なので、仕事の成果に応じて評価する職種については、ホワイトカラー・エグゼンプションをしていくべきだ。

Q: 時間外(の議論)だけが先行して進んでいくことはあり得ると思うが。

北城: 少しおかしいのではないかと思う。

小島: 基本的に、時間外手当の賃率を上げれば時間外労働が減るという発想自身が、何か逆転しているように思う。本来、長時間労働をどのようにやめていくかという発想がないと、減るとは思えない。

北城:大事な視点は、日本のなかに質の高い雇用の場をたくさん作ることが処遇を上げることにも結びつく、ということだ。雇用の場を増やさずに賃金だけ上げる、生産性を上げ、付加価値を高めることなしに賃金だけ上げようという考え方は、日本の産業界を弱くすることになると思うし、世界的な流れにも反する。

Q: ホワイトカラー・エグゼンプション導入にあたって、週休2 日相当の休日を確保するといった法的な下支えが必要になるとお考えか。

北城: これもおかしな議論で、自らどのような時間で働くかを判断できる人がホワイトカラー・エグゼンプション(の対象)になっているのに、その人に強制的にこの日に休め、休むなということを言うこと自体がおかしい。勤務時間の長さに応じて処遇する人の働き方と、成果に応じて処遇する人の働き方を一緒に議論しているように見える。どうしても忙しくて休日勤務が必要になる場合もあるが、長期的に休めない職場は魅力のない職場であり、もっと魅力的な職場に人が移ることで魅力ある企業ができていく。勤務時間の長さでルールを作ることは、勤務時間の長さで処遇しないという制度と反するのではないか。勤務時間の長さを企業が決めてしまう、実質的に自らの裁量権がない職種があるという前提の制度設計を、自らの裁量によって働くことができる、仕事の成果で処遇が決まるというように(変えていく)。あとは本人が、仕事の成果を上げるために、例えば土曜日に働くかどうかは本人が決められる制度のほうがよい。

対象は年収900万円以上 労働時間規制除外で厚労相
[東京新聞 2007年01月10日 20時25分]

 柳沢厚労相は10日、自民党の中川昭一、公明党の斉藤両政調会長ら与党幹部と個別に会談し、労働時間規制を一部除外するホワイトカラー・エグゼンプションに関し、対象者を年収900万円以上とする案を示した。
 同制度をめぐっては「残業代が支払われず、長時間労働を助長する」との批判が強いため、9日の与党幹部の会談でも通常国会への関連法案提出は困難との認識で一致した。これに対し柳沢氏は「管理職の年収の平均が約900万円だ」と説明。対象者が一定の高年収者に限られることを具体的に示して理解を求めた。
 これに関連して、塩崎官房長官は10日午後の記者会見で、関連法案について「与党や国民の理解を深めて(国会に)提出する必要がある」と指摘。同制度を「仕事と生活の調和を実現する一つの方策だ」と述べた。(共同)

労働時間規制除外 法案へ努力
[NHKニュース 1月11日 15時8分]

 塩崎官房長官は、記者会見で、労働時間の規制を外す新しい制度「ホワイトカラー・イグゼンプション」の導入について、法案の提出を目指して国民の理解を得るための努力を続ける考えを示しました。
 ホワイトカラー・イグゼンプションの導入をめぐっては、厚生労働省が通常国会に法案を提出したいとしているのに対し、与党内では国民の理解を得るには時間がかかるなどとして法案の提出に慎重な意見が出ています。これについて、塩崎官房長官は、記者会見で「残業代がまったくもらえなくなるのではないかといった誤解があるほか、なぜ導入するのかについても理解が十分ではない。国民の理解を十分得て法案を提出するのが筋であり、法案の提出に向けていっそう努力していく」と述べ、法案の提出を目指して国民の理解を得るための努力を続ける考えを示しました。

作成者: GAKU

年齢:50代 性別:男 都道府県:東京都(元関西人) 趣味:映画、クラシック音楽、あとはひたすら読書

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